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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.190 『土偶を読む―130年間解かれなかった縄文神話の謎』竹倉 史人/晶文社

蔦屋書店・丑番のオススメ『土偶を読む―130年間解かれなかった縄文神話の謎』竹倉史人/晶文社
 
 
土偶。
縄文時代に粘土で形作られた人形(ひとがた)の造形物。
 
現在でも、土偶には、ふたつの大きな謎があるようです。ひとつは、「土偶は何をかたどっているか」というモチーフの問題。もうひとつは「土偶はどのように利用されてきたのか」という用途の問題。研究者のあいだでも統一的な見解は形成されていないようです。
 
そんな状況なのに。
 
「ついに土偶の正体を解明しました。」から本書は始まります。
土偶は、「植物の姿をリアルに写実したものである」というのが本書の結論です。(冒頭に書かれているのでネタバレではないですよ。)
土偶には、植物をリアルに写実することと、人体を抽象化するという造形が混在しているため、現代人は混乱するが、「植物の人体化」というのは、日本のみならず古代の造形物に広く見られる事象だということです。
 
その傍証にどれだけ、説得力があるのかというのが本書の肝心なところです。
 
傍証の進め方として、まず、土偶の形に着目をします。美術史学で用いられるイコノロジー研究を基礎とし、土偶の形を読み解き、モチーフを同定していきます。ここが面白い。この土偶ってこれに似てるよね、という面白さ。成人した双子の方に会うと、あー似てますねとか、一卵性ですかとか、当たり前のことを言いながら、なぜか、ちょっと笑ってしまっています。似ていることそれ自体の面白さ。この土偶って、これに似てるよ、と写真が提示されるのですが、笑ってしまう。
 
土偶に似ている例として、ゆるキャラも挙げられています。ゆるキャラは地域の特産物・名物の人形(ひとがた)の造形化ですよね。それが土偶と似ているということは、人形(ひとがた)の造形化の方向性は、縄文時代も現代も変わらないのかなどと考えたりもします。
 
それだけだと、イコノロジー研究を踏まえているとはいえ、ただの思いつきじゃないかという、誹りを免れないかと思うのですが、そこに、これまでの考古学研究の実証的データを重ね合わせて、論に説得力をもたせています。
 
さあ、土偶の正体は何なんでしょうか?本書の結論が、正しいのか?それはこれからの学問的な研究の進展に委ねられています。いまは、まだ仮説の段階でしょう。学問というのは少しずつ前進します。大きなブレイクスルーに見えることも先行研究を踏まえています。まったくの独創的な視点で土偶を読み解いた本書にはいくつかの批判的な論点も寄せられています。土偶の形態変化や編年を無視しているのでは?という批判には納得感があります。学問は検証にさらされることで、少しずつ前進します。著者と考古学会の応答に期待します。
 
もし土偶の正体が本書の結論と異なっているのであれば、本書『土偶を読む』を読む意味はないのでしょうか?そうではありません。考えるきっかけになること、それこそが、この本の最大の魅力です。つまり、わかったつもりにならず、批判的に情報を読み解くことです。すでに、この本を読んでしまったわたしは、土偶のさまざまな形態を読みたいという欲求にとらわれてしまっています。
 
 
 
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