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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.184

蔦屋書店・江藤のオススメ 『教室の片隅で青春がはじまる』谷口菜津子/KADOKAWA
 
 
今回は、ストレートな書き出しから始めさせてください。
最高に素晴らしくめちゃめちゃ良い漫画を見つけました。
多くの人に広めたいのです。
だから紹介します。
 
『教室の片隅で青春がはじまる』という漫画です。
 
主人公の女の子は、自分は特別な人間であると思っていて、みんなから一目置かれたい願望があるのですが、どう頑張っても浮いてしまう。なにかしようものなら、思いっきり空回りしてただの変人扱い。したがってこれまで友達が出来たことがない、という「まりも」という名前の女子高生です。
 
まりもは女子高に通っているのですが、そのクラスにはいわゆる一軍と呼ばれるようなグループがいて、その一軍メンバーというのが、学年イチかわいいと言われている女の子(実は推しキャラのことばかり考えているオタクな子)、そのグループのまとめ役的女の子(実は裏アカでは、自分の理想である最高の女子高生になりすましている。実は写真を撮るのが好きでかなりうまい)、有名なユーチューバーなどなどと付き合っている女の子(でも実は...)そして、宇宙からの留学生が2人!(この2人も本当の自分は...)
 
そう、一軍というグループに属することでクラスでの一定の地位を得ている彼女らだが、本当の自分の居場所はここではないと実は知っているんです。
 
そういった意味では、まりもは自分の居場所にちゃんと居る。
でも、はっきりいってうまくいっていません。
ユーチューバーになろうとメントスコーラをやってみたり。
あるあるネタをやってみたり。
心霊ライブ動画の撮影に挑戦してみたり。
だけど一向に視聴数は伸びません。
 
でもうまくいっていないけど、彼女は自分のやりたいことをやっている。
他の人からどう見られようが曲げない、だから受け入れられなかったりするけど。
でも、まりもには、凄く良いところもたくさんあるのです。
彼女は人に気を使ったり、人に合わせたり、他人の目を気にしたり、しない。
それゆえになのか、彼女は他人のいいところを素直に認める。
他人の好きなものをバカにしない、あざ笑ったりしない、素直に相手の良さを認め嫉妬する。
いや、めっちゃいいこじゃないか!
 
そして、本当の自分の居場所ではないと実はわかっている一軍グループの女の子たちも、まりもの影響を受けてなのかどうか、まりもをバカにしながらも、変わっていく。
 
自分の本当にやりたいこと、自分が本当に居るべき場所、を見つけていく。
彼女らのエピソードはどれも本当に清々しくて美しい。
これが尊いということだ。
 
自分の本当の居場所がここじゃないと思っていたり、やりたいことが出来ていなかったり、願う自分になれないだったり、そんなことをみんな思っていると思う。僕だってそうだ。
 
そんな人が陥りがちな罠がある。
それが「進研ゼミの漫画の内面化」という状態だ。
 
この言葉は『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』(ぼくらの非モテ研究会 青弓社)という本の中で言及された概念なのであるが、説明すると。
 
例えばモテない男性がいるとする。でも彼はモテる努力をしていないだけなんだと、なんならあえてモテようとしていないだけだ。でも、俺だって、やればモテるんだ。と自分で自分を納得させる。という状態。
 
進研ゼミのマンガでは、だいたい以下のようなストーリーが描かれる。
勉強もスポーツもクラスでの人気もいまいちな主人公。友達の〇〇ちゃんに比べると全然だめだ。なんて思っている。
友達の〇〇ちゃんに聞いてみると、進研ゼミをやっているという。
進研ゼミなら、短い時間で授業の予習復習もバッチリできて、テスト対策も万全。勉強時間を短くできるので、部活動にも打ち込める。そして勉強やスポーツで自信がついて、友達も多く、かっこいい彼氏もできたんだ!
君も進研ゼミを始めればこうなれるよ!
 
このストーリーを自分事にしてしまうのだ。
自分もあれをやれば、ガラッと生活は変わって、思い描いた自分になれる。
でも、今はまだそれをしていないだけ。
 
しかし、そう思うだけならまだ可愛いものだが、陥りがちな罠がある。
そう、もしやっても駄目だったら...と思ってしまうのだ。
やって駄目だったら終わりだ、だからやらないでおこう。
今のままでいよう。
 
こうなってしまうとそこから一歩も出られない。
そんな状態から抜け出すためのいい方法もある。
 
期待しないのだ。
 
他人にも、そして自分にも期待しない。
これだけやったら他人に認められるだろうという期待を捨てる。これだけやったから自分は凄くなるだろうという期待を捨てる。
そうして、淡々となすべきことをなすのだ。
たしか、みんな大好きタモリさんがこれに近いことを言っていたような気がする。
これは確かに一つの真理であるのだが。
 
まりもはちょっと違う。
まりもは、やるかやらないかでいうと、やる方の人間だ。
 
基本的には他人から認められなくてもくじけないし気にしない。つまりは他人に期待していないように思えるのだが、少し違うのが、自分が決めた「この人」にはわかってほしい、そして認めて欲しいと願い続けている。そこは諦めない。そして、なにもしない自分には期待しないが、なりたい自分になるための努力は絶対に惜しまないし諦めない。
 
いい場面だらけのこの漫画の中でも、何度読み返しても最高で、そして涙がでてしまう場面がある。
 
学年イチの美少女が、クラスのみんなが引いてしまうような大声で
空気なんか読まないで、叫ぶ。
 
「人がめちゃくちゃ大好きなものをなんも知らん奴がバカにすんな!」
 
居たい場所であり、居るべき場所に居るのが一番よくて
好きなことをやっている奴が本当は一番カッコいい
 
この漫画で一貫して語られるのはこんな当たり前なメッセージだ。
でも、ややっこしくて危うい、自分の立ち位置を見つけるのに苦労する今の時代にこそ
こんなストレートなメッセージを発することが必要なのだと思う。
 

あーーー高校生の自分にこの漫画読ませてあげたかった!!!
 

 
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