広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.170

蔦屋書店・竺原のオススメ 『ノースウッズ-生命を与える大地-』大竹英洋/クレヴィス
 
 
2020年の2月に刊行されたこの写真集は、アメリカとカナダの国境付近から北極圏にかけて広がる北米の北方林「ノースウッズ」と呼ばれる地域を、実に20年に渡り取材して来た写真家/大竹英洋のこれまでの軌跡が詰め込まれた“現時点での”集大成となる一冊である。そんな作品がこの度、国内でも有数の権威ある写真賞である土門拳賞を受賞された(第40回)という事で、これを一つの契機として、改めて皆様にご紹介する次第である。
※土門拳賞は、日本の写真にひとつの流れを確立した巨匠・土門拳の業績をたたえ、1981年に毎日新聞創刊110年記念事業としてスタートしたもの
 
ノースウッズと言えば世界最大の原生林の一つでもあり、カリブーやオオカミといった様々な野生動物が生息している大自然であるが、頁を捲ればそんな地に息づく動物や草木の、決して「つくられた」ものではない表情を見る事が出来、また水や石、オーロラといったものからでさえ、それが「生きている」のだとわかる様な温もりを感じられ、都市での生活に慣れた人間(私)からすれば、そうした純自然的な存在が被写体となった一枚一枚を目にする度、本能的に驚きを覚えずにはいられない。
 
本作を観て思うのは、この本を通じて観る自然界の光景は、我々が暮らす日常と並行して存在している現実なのだというおかしみである。
「自然」という言葉の定義からすれば、ノースウッズの状況が本来的な自然という事になるのであろうが、現在我々が暮らす社会を一度振り返った上で、改めてノースウッズを覗いてみると、余りの環境の違いに、反対にそれを「不自然」だと感じてしまう程の圧倒的な景色である。
こうした、自分の置かれている今と全く異なる世界が、この世のどこかに確実に存在しているのだという事実が、何故か心を奮い立たせてくれる。
 
またこの作品は、人間と自然との繋がりについて考えるきっかけを与えてくれる。
生きとし生けるものや、あるいは生物学的には生きものとは見做されていないかも知れない自然界の存在・・・。
そうした、我々を含めた森羅万象がこの地球から命を与えられて生かされているのだという事を改めて痛感させてくれて、結果としてそれがより良い未来について考えるきっかけになるのだと思う。
 
ノースウッズの地で狩猟採集の暮らしを営んで来たアニシナベという先住民がいる。
彼らは自分達の周りの自然を「ピマチオウィン・アキ=生命を与える大地」と呼ぶのだそうだが、本作に目を凝らせば、その理由が少し、わかるかも知れない。
 
 
大竹英洋(おおたけ ひでひろ)
1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。1999年より北米の湖水地方「ノースウッズ」をフィールドに野生動物、旅、人々の暮らしを撮影。人間と自然とのつながりを問う作品を制作し、国内外の新聞、雑誌、写真絵本で発表している。
写真家を目指した経緯とノースウッズへの初めての旅を綴ったノンフィクション『そして、ぼくは旅に出た。はじまりの森 ノースウッズ』(あすなろ書房)で「第七回 梅棹忠夫・山と探検文学賞」受賞。カラフトフクロウの給餌を捉えた作品「北の森に生きる」で「日経ナショナルジオグラフィック写真賞2018 ネイチャー部門最優秀賞」受賞。自身初の本格写真集『ノースウッズ─生命を与える大地─』で2021年、「第40回土門拳賞」受賞。

 
 
 
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