広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.179
蔦屋書店・丑番のオススメ 『高田渡の視線の先に -写真擬- 1972-1979』高田渡・高田漣/リットーミュージック
ASIAN KUNG-FU GENERATIONを最近聴くようになった。デビューして20年ほど経つバンドなのに最近。きっかけは、蔦屋書店のバックヤードのデスクに置いてあったアジカンのボーカル、後藤正文が書いたエッセイ『凍った脳みそ』(ミシマ社・2018年)だ。ミシマ社は取次を通さない直取引の出版社。注文した書籍が宅急便で送られてくるので、たまに品出しまでの間、デスクの上に置かれていることがある。誰かが発注したのだろう。どんなものか、と思ってちょっと読んでみた。これはちゃんと読まないといけない本だと、その日の退勤後、さっそく本を買った。文章の面白さ、世界の切り取り方に感嘆し、当然の流れで、アジカンの音楽も聴くようになった。
このように、本がきっかけで音楽にふれることもあると思う。本も音楽も表現者がどのように世界を見ているかを反映するものだから。
今回取り上げる本も、そのきっかけになればという思いから紹介をする。伝説のフォークシンガー高田渡の写真集『高田渡の視線の先に-写真擬-1972-1979』だ。
タイトル通り1972年から1979年に高田渡によって、撮られた写真を集めたもの。写真もどきというタイトルはプロカメラマンではない歌手の余技であることからの自嘲だろう。しかし、この写真集が素晴らしいのだ。高田渡にしかとれない写真だ。
ひとつは、フォークシンガーだから撮ることができた写真。交流のあったミュージシャンのオフショットだ。大瀧詠一、細野晴臣、井上陽水、泉谷しげるなど錚々たるメンバー。この美貌の青年は誰だろう、とおもうと坂本龍一の若かりし頃だったり。
しかし、それ以上に市井のひとびとを撮った写真がすばらしい。どこにでもある風景。でも見落としてしまいがちな日々の営み。そこに生きるひとびとの人生。そんな奥行きを感じる一瞬が切り取られている。高田渡は歌と同じような視線で世界を切り取っている。高田渡が世の中を見つめる視点。一枚の写真をずっと眺めてしまう。
高田渡は自伝『バーボン・ストリート・ブルース』で写真を撮ることについて以下のように書いている。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONを最近聴くようになった。デビューして20年ほど経つバンドなのに最近。きっかけは、蔦屋書店のバックヤードのデスクに置いてあったアジカンのボーカル、後藤正文が書いたエッセイ『凍った脳みそ』(ミシマ社・2018年)だ。ミシマ社は取次を通さない直取引の出版社。注文した書籍が宅急便で送られてくるので、たまに品出しまでの間、デスクの上に置かれていることがある。誰かが発注したのだろう。どんなものか、と思ってちょっと読んでみた。これはちゃんと読まないといけない本だと、その日の退勤後、さっそく本を買った。文章の面白さ、世界の切り取り方に感嘆し、当然の流れで、アジカンの音楽も聴くようになった。
このように、本がきっかけで音楽にふれることもあると思う。本も音楽も表現者がどのように世界を見ているかを反映するものだから。
今回取り上げる本も、そのきっかけになればという思いから紹介をする。伝説のフォークシンガー高田渡の写真集『高田渡の視線の先に-写真擬-1972-1979』だ。
タイトル通り1972年から1979年に高田渡によって、撮られた写真を集めたもの。写真もどきというタイトルはプロカメラマンではない歌手の余技であることからの自嘲だろう。しかし、この写真集が素晴らしいのだ。高田渡にしかとれない写真だ。
ひとつは、フォークシンガーだから撮ることができた写真。交流のあったミュージシャンのオフショットだ。大瀧詠一、細野晴臣、井上陽水、泉谷しげるなど錚々たるメンバー。この美貌の青年は誰だろう、とおもうと坂本龍一の若かりし頃だったり。
しかし、それ以上に市井のひとびとを撮った写真がすばらしい。どこにでもある風景。でも見落としてしまいがちな日々の営み。そこに生きるひとびとの人生。そんな奥行きを感じる一瞬が切り取られている。高田渡は歌と同じような視線で世界を切り取っている。高田渡が世の中を見つめる視点。一枚の写真をずっと眺めてしまう。
高田渡は自伝『バーボン・ストリート・ブルース』で写真を撮ることについて以下のように書いている。
「僕がカメラに魅かれたのは、一本のギターから奏でられる音楽が人によって異なるように一台のカメラで移された写真も、写す人によってすべて違ったものになるからだった。きわめて現代的な道具なのに、その人の性格が必ず出るのだ。さまざまな無機質なものが浸透しているなかで、人間が人間らしさを表せる数少ない道具のひとつだと言ってもいい。だからこそおもしろいともいえる」
高田渡が2005年に56歳の若さで亡くなってもう16年。高田渡のことを知らない人も多いだろう。簡単に説明をする。
高田渡は、1949年生まれ。60年末から活動を始めたフォークシンガー。70年前後は、学生運動が盛り上がりをみせた時代。明確なメッセージをもって自分の主張をぶつけるプロテストソングがもてはやされた。高田渡は、明確な主張は行間にしのばせ、自分の日常生活を淡々と歌う曲が中心だった。また、谷川俊太郎や山之口貘といった現代詩を好んで取り上げ、歌にした。1971年のアルバム『ごあいさつ』は日本音楽史に残る名盤だ。その中の京都の喫茶店イノダのことを歌った『コーヒーブルース』は美しいラブソングだ。京都の三条堺町のコーヒー屋イノダにいきたくなる。また、山之口貘の詩を歌にした代表曲『生活の柄』も収録されている。湯村輝彦デザインのジャパニーズ・バナナジャケットもポップで楽しい。
80年代、90年代とライブを中心にマイペースに活動を続けた高田渡に再度大きな注目が集まったのは、2004年の映画タナダユキ監督の『タカダワタル的』がきっかけだった。50過ぎなのに70歳を超えたような枯れた風貌。映画の中では高田渡はいつも酒を飲んでいる。酒と歌に愛された老人(50過ぎだけど老人に見える)。ライブ中も、ろれつの回らないMCは独特のおかしみを感じさせる。高田渡が話し始めると引き込まれて、必ず笑ってしまう。肝心の歌はというと、素晴らしい!
今年は高田渡関連本の出版ラッシュで、さきほど紹介した写真集だけでなく、なぎら健壱が書いた『高田渡に会いに行く』(駒草出版)も出版されている。この本では、なぎらが高田渡の兄、息子、元妻、ミュージシャン仲間の計5人に高田渡についてのインタビューを行っている。なぎら健壱の同じフォークシンガーとして、高田渡に対する敬愛の念があふれた文章がよい。そしてそれだけに留まらず、フォーク音楽史家として伝説でなく、事実を丹念に掘り起こす姿勢がすごい。(余談だがなぎらの『東京酒場漂流記』(1995・ちくま文庫・絶版)は名著だ。フォークシンガーだけでなく、文筆家として、タレントとして才能がある。才人というのはこのような人のことを言うのだろう)。
息子でミュージシャンの高田漣へのインタビューは、特に読ませるものだった。酔っ払ってステージで寝てしまったりすることも「高田渡伝説」として消費されていた晩年。高田渡は、アルコールに依存していた。高田漣は高田渡のバックを務めることもあり、本気で父に怒っていた。あなたは素晴らしいミュージシャンなんだから、お客さんの期待に応えなくてはいけないと。酒はやめるべきだと。舞台をしくじることが、「伝説」として消費されてしまう悲しさ。誰も高田渡に厳しいことを言えず、また、厳しいことをいう人を遠ざけていたとも語られている。悲しい。
酒をやめていれば、いまも高田渡の音楽が聞けたかもしれない。高田漣のインタビューでは、細野晴臣との再共演の話も出ていたという。それを聴きたかった。
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