広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.164

蔦屋書店・竺原のオススメ 『こいわずらわしい』メレ山メレ子/亜紀書房
 
「恋患い」と「煩わしい」のダブルミーニング的なタイトルが耳に残る本作は、いわゆる「恋愛」への違和感や疑問、実体験から得た考察などの真面目な想いが、ふんわりとしたユーモアと共に23編のコラムで綴られている(巻末には詩人である穂村弘さんとの特別対談も収録されている)。
 
この作品は「ナポレオン」というWebメディアで2019年1月から6月にかけて週次で連載していた「蝙蝠はこっそり深く息を吸う」というコラムが原型になっている(「ナポレオン」は現在閉鎖中)訳だが、そもそもこの著者であるメレ山メレ子さんとは何者か?
 
メレ山さんは元々会社員として働かれていた2006年に、ブログ「メレンゲが腐るほど恋したい」を開始。
旅の中で出会ったあれやこれやを写真や文章を使って発信されていた(ちなみにその旅の途中で出会ったイヌに「わさお」と名付け紹介したところ、メディアに取り上げられたり映画がつくられたりして大人気となる事態もあった)。
またその中でも特に昆虫に関心を抱く様になり、2012年から「昆虫大学」という、研究者やクリエーターから虫の魅力を学ぶイベントを主催するまでになっておられるという事で、そちらの活動も非常に楽しそうである(本作中にも虫にまつわるエピソードや、虫にまつわらないエピソードにも関わらず例えで虫が出て来たりといった具合で、その愛の深さが窺い知れる)。
とにかくご自身の興味を魅力的な表現方法で世に出す力が豊かな方である
 
そんな彼女はこれまで、いくつかの著作を発表している。
上述のブログの書籍化『メレンゲが腐るほど旅したい メレ子の日本おでかけ日記』。
日本、更には世界の昆虫へと取材に向かった『ときめき昆虫学』。
旅と「死」について語った『メメントモリ・ジャーニー』。
そして恋愛にまつわる本作へと至る流れだ。
これまでの三作は正に彼女の趣味嗜好が反映された内容になっている一方で、今回の一作はご本人も「なぜわたしが“モテ”について・・・?」といった具合に疑問を抱かれる程、意外な観があった事を文中でも明らかにされている。
 
だがその意外さゆえにメレ山さんは「モテ」「恋愛」といったトピックを改めて見つめ直す必要に迫られる事となり、結果的に読む側の凝り固まった恋愛観というものに新しい視座を与えてくれる様なストーリー(本作に掲載されているもの)がいくつも生み出されたという事は、喜ばしい事に間違いない。
 
多様性の時代などと呼ばれる現代だが、こと恋愛に関して、その概念に縛られ、息が詰まりそうになっている人がいたとしたら、本作はその紐を優しく解いてくれる役割を果たしてくれる事となるだろう。
「恋愛は“変わった趣味のひとつ”という位置に置いたほうがいい」という考え方には、救われる方も多いのではと思う。
 
 
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