広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.343『TN君の伝記』なだ いなだ/福音館書店
蔦屋書店・佐藤のオススメ『TN君の伝記』なだ いなだ/福音館書店
児童書として出版されている本には、いわゆる「子ども向けの本」というものと、それから「子どもにも分かる本」というものとの、二種類の見方があるように、私は理解しています。
そのうちの「子どもにも分かる本」というのは、“子どもにも読めるように分かりやすく書かれた、大人子ども両方に向けた内容の本”のことで、そうしたものに当てはまる本の中には、むしろ大人になって読んでみてこそ感じるような深みを持つ作品が、いくつもあるのではないかということを常々感じています。
今回ご紹介する『TN君の伝記』も、そのように思う本のひとつです。
『TN君の伝記』は、まずとにかく面白く、読めばすぐに引き込まれ、一気に読み進めてしまうような本であることを申し上げたいです。そしてさらに、読んで面白かったということだけでは決して終わらないような、いろいろなことを考えさせられる本であることもお伝えしたいです。今から50年近く前に書かれた作品であり、さらに描かれる題材は100年以上前の出来事です。しかし、そこには現在の私たちに必要なメッセージが示されているように思います。
そのうちの「子どもにも分かる本」というのは、“子どもにも読めるように分かりやすく書かれた、大人子ども両方に向けた内容の本”のことで、そうしたものに当てはまる本の中には、むしろ大人になって読んでみてこそ感じるような深みを持つ作品が、いくつもあるのではないかということを常々感じています。
今回ご紹介する『TN君の伝記』も、そのように思う本のひとつです。
『TN君の伝記』は、まずとにかく面白く、読めばすぐに引き込まれ、一気に読み進めてしまうような本であることを申し上げたいです。そしてさらに、読んで面白かったということだけでは決して終わらないような、いろいろなことを考えさせられる本であることもお伝えしたいです。今から50年近く前に書かれた作品であり、さらに描かれる題材は100年以上前の出来事です。しかし、そこには現在の私たちに必要なメッセージが示されているように思います。
この本は、明治維新の時代に活躍したある人物の伝記なのですが、それが誰のことなのか、最後まで名前は明かされません。実在の人物である主人公を、イニシャルで「TN君」と呼んでその生涯を語っていく、そのような形式にした理由を、作者のなだいなださんは冒頭で次のように述べています。
「…伝記を書くなら、どうして、本名を出さないのか、君は疑問に感じるかもしれない。
だが、答えは簡単だ。ぼくの知ってもらいたいのは、彼の名前ではなくて、彼がどんなふうに生きたか、ということだからだ。そのためには、名前なんてじゃまになる。そう思ったから、名前は出さない。…」
だが、答えは簡単だ。ぼくの知ってもらいたいのは、彼の名前ではなくて、彼がどんなふうに生きたか、ということだからだ。そのためには、名前なんてじゃまになる。そう思ったから、名前は出さない。…」
作者の方の考案したこの設定が、本当に秀逸で、はじめはTN君とは誰なのかと思いながら読み始めても、いつのまにかそんなことは全く気にならなくなります。効果として意図された通り、書かれていることを、ある一人の人間の生き方考え方として先入観なく受けとることができるのです。それは同時に、ここで描かれるTN君という優れた思想家がたどる考えの道すじを、読むことによって追体験することでもあり、さらに「ものを考える」とは一体どういうことなのかということを、一つのあり方として、具体的に読者に伝えることにもつながっています。
本書には、彼の自由を求める闘争の過程で生まれた、含蓄に富む素晴らしい名言も数多く登場しますが、例えば、ただ名言を名言として紹介するようなものとは異なり、“TN君という一人の人間が、どんなふうに考え、どんなふうに生きたのか”ということを明らかにしようとするなかで述べられるそれらの言葉は、より深く、読む人の心に響くのではないかと思います。
本書には、彼の自由を求める闘争の過程で生まれた、含蓄に富む素晴らしい名言も数多く登場しますが、例えば、ただ名言を名言として紹介するようなものとは異なり、“TN君という一人の人間が、どんなふうに考え、どんなふうに生きたのか”ということを明らかにしようとするなかで述べられるそれらの言葉は、より深く、読む人の心に響くのではないかと思います。
坂本龍馬、大久保利通、板垣退助、西郷隆盛、伊藤博文…時代の立役者として広く知られる有名人が多数登場します。一般的に偉人のように見なされている人物も、TN君の目から見れば必ずしもそうではありません。例えば、TN君もさまざまに尽力した国会開設・憲法制定に向けた民間の自由民権運動の行く末と、政権の中枢にいる人たちの権力争いとが、どのように密接に関わっていたのかということ。そうしたことが、為政者の視点とは異なる、TN君という在野の人の目から見た歴史の流れの中で明らかにされていきます。
それは、歴史の知識のない私が、ただ教科書の人名と用語の組み合わせから単純に抱いていたイメージから、かなり隔たる内容でしたが、学校の勉強ではなかなか頭に入ってこなかった歴史上の出来事も、非常に分かりやすく納得しながら理解することができました。一つの捉え方として、多くの人の参考になる本ではないかと感じました。
それは、歴史の知識のない私が、ただ教科書の人名と用語の組み合わせから単純に抱いていたイメージから、かなり隔たる内容でしたが、学校の勉強ではなかなか頭に入ってこなかった歴史上の出来事も、非常に分かりやすく納得しながら理解することができました。一つの捉え方として、多くの人の参考になる本ではないかと感じました。
周りに流されることなく常にものごとの本質を見極め、それを見失わない姿勢。欧州留学時に肌で感じた、市井の人々のあいだに息づく革命の熱気に触発されることで培われた確固たる理想。そしてそれを日本で実現させていくための現実的な方法を模索し行動し続けた生き方。
TN君のこうした、孤高とも言える生涯の歩みを追ってきた伝記の終盤に漂う雰囲気は、それまでのものとは少し趣を異にしています。
明治の半ば過ぎ、世間ですっかり名を聞くことのなくなったTN君が何をしていたのかということが、後日談のように記されます。それは「あのTN君が、そうなったのか」と、少し驚くような変化でありながら、しかし「これまでのことを経験してきたTN君だからこそ、そうなったのだ」と頷けもする、複雑な気持ちになるものでした。
厳かさを伴うような、ずしりと重い印象を残して、この伝記は結ばれます。世の中のあり方について、個人の生き方について、読み終えた後も様々な問いを投げかけ続ける名著であると思います。
TN君のこうした、孤高とも言える生涯の歩みを追ってきた伝記の終盤に漂う雰囲気は、それまでのものとは少し趣を異にしています。
明治の半ば過ぎ、世間ですっかり名を聞くことのなくなったTN君が何をしていたのかということが、後日談のように記されます。それは「あのTN君が、そうなったのか」と、少し驚くような変化でありながら、しかし「これまでのことを経験してきたTN君だからこそ、そうなったのだ」と頷けもする、複雑な気持ちになるものでした。
厳かさを伴うような、ずしりと重い印象を残して、この伝記は結ばれます。世の中のあり方について、個人の生き方について、読み終えた後も様々な問いを投げかけ続ける名著であると思います。
『TN君の伝記』は、どちらかというと店頭で見かけることも少なく、たくさん売れるような本ではないかもしれません。それを長年出版し続けてきてもらえたおかげで、子どものとき知らなかったこの本に、大人になってから私は出会うことができました。そのことに感謝したい作品です。
文庫本であり、そうした意味では比較的手に取りやすいのではないかと思います。こうしてここでご紹介させて頂くことで、ご興味をもたれる方、読んでみようかと思われる方がもしもおられるようでしたら、たいへん嬉しいです。
文庫本であり、そうした意味では比較的手に取りやすいのではないかと思います。こうしてここでご紹介させて頂くことで、ご興味をもたれる方、読んでみようかと思われる方がもしもおられるようでしたら、たいへん嬉しいです。