広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.312『ぼくらのまちにおいでよ』大桃洋祐/小学館
蔦屋書店・佐藤のオススメ『ぼくらのまちにおいでよ』大桃洋祐/小学館
今回は、NHK Eテレ「みんなのうた」や、企業のプロモーションムービーなどのアニメーション作品やイラストを多数手掛ける大桃洋祐さんの、第一作目の絵本である『ぼくらのまちにおいでよ』をご紹介いたします。
『ぼくらのまちにおいでよ』は、私にとって、絵本の絵を見ることの幸せを、たっぷりと与えてくれる作品です。アートやデザインなどに関してこれといった知識を持たないうえでの、ただ素朴に思うことでありますが、少し前にこの本を買って以来、日々手にして眺めながら、ずっとそのことを感じています。
『ぼくらのまちにおいでよ』は、私にとって、絵本の絵を見ることの幸せを、たっぷりと与えてくれる作品です。アートやデザインなどに関してこれといった知識を持たないうえでの、ただ素朴に思うことでありますが、少し前にこの本を買って以来、日々手にして眺めながら、ずっとそのことを感じています。
この絵本は、イマジネーション溢れる「ぼくらのまち」の様子を、大桃さんの描く、見る人の心を穏やかにするような明るく洗練された絵で、それぞれの場所や場面を切り取るように紹介していくものです。「ぼくらのまち」のふつうとちょっと違うところは、動物たちがあちこちで人々と同じように働きながら暮らしていることです。表紙をはじめ作品の中で何度か描かれる、建物が並ぶ街の一角を少し高い場所から眺めた絵には、通りを歩く人々に混じって、よく見るとワニやウサギやハリネズミなどの姿も見られます。
大桃さんは「街と暮らし」をテーマの一つとして創作活動を行っておられるそうですが、この絵本でも、きれいなパステルカラーで彩られた街のあいだには、買い物帰りなのか紙袋を提げ華やかな柄のワンピースに身を包んだ女性の姿や、お揃いの服装で並んで歩く双子らしき二人の若者など、人々の暮らしの様子を感じさせるような小さなシーンがいくつも描かれます。大桃さんの作品は、一枚の絵全体から受ける印象もとても素敵ですが、部分部分も楽しく、まるで絵巻でも見ているような面白さがあります。
そうした街の絵に続くのは、俯瞰からのズームアップ。ページをめくると、先ほど通りの真ん中あたりの一角に覗いていた一軒の花屋さんの店先が目の前に現れます。そこにいるのは、山のように盛られた花々に囲まれて座る、青い目をした金色のライオンです。
「かどに あるのは おはなやさん。
おおきな ライオンが はたらいている。
ちいさい ころから はなが だいすき。
フフフと わらう ライオンは
まるで おおきな はなのよう。」
おおきな ライオンが はたらいている。
ちいさい ころから はなが だいすき。
フフフと わらう ライオンは
まるで おおきな はなのよう。」
語りすぎない短い言葉は、大きな花のようなたてがみを持つライオンを主人公にしたもうひとつの物語の存在を、読む人の心にほのめかすかもしれません。そのほか街のあちらこちら、郵便配達に走りまわるウマや、本屋さんの高い書棚にある本を長い鼻を使って取ってくれるゾウなど、さまざまな仕事ぶりを披露する動物たちが順番に登場します。こうした心を楽しくするような、想像の膨らみを持たせた場面表現を大小いくつも積み重ねて、この作品は出来上がっているようです。
『ぼくらのまちにおいでよ』の絵は、全ページが見開きで紙面いっぱいに描かれているのですが、それぞれが素晴らしく、特に好きないくつかの場面は、そのまま本を開いて飾っておきたいような気持ちになります。
そしてこれは個人的な好みの問題なのかもしれません。私がそう感じる気持ちをさらに強く後押しするものとして、この絵本の物質的な質感というのがあるのですが、そうしたことはみなさんどの程度気になるものなのでしょう。
ツルツルとした光沢のある紙面でなく、少しマットな風合いの紙に刷られた絵は、発色もとても美しく、直接描かれた絵の具の筆跡が残っていると、ちょっと錯覚してしまうような手触りです。印刷物として認識するよりもっと“絵がここにある”という感覚が呼び起こされ、作品そのものの存在感がよりダイレクトに伝わってくるように感じます。それがこの作品の個性に、とても合っているように思うのです。
それから、各場面に添えられた言葉を表す文字についても、主張しすぎないやわらかな雰囲気のフォントが使用されているのが、作品にとても調和していると感じました。これもまた絵本の印象を左右する重要な要素であるように思います。
そしてこれは個人的な好みの問題なのかもしれません。私がそう感じる気持ちをさらに強く後押しするものとして、この絵本の物質的な質感というのがあるのですが、そうしたことはみなさんどの程度気になるものなのでしょう。
ツルツルとした光沢のある紙面でなく、少しマットな風合いの紙に刷られた絵は、発色もとても美しく、直接描かれた絵の具の筆跡が残っていると、ちょっと錯覚してしまうような手触りです。印刷物として認識するよりもっと“絵がここにある”という感覚が呼び起こされ、作品そのものの存在感がよりダイレクトに伝わってくるように感じます。それがこの作品の個性に、とても合っているように思うのです。
それから、各場面に添えられた言葉を表す文字についても、主張しすぎないやわらかな雰囲気のフォントが使用されているのが、作品にとても調和していると感じました。これもまた絵本の印象を左右する重要な要素であるように思います。
先日、SNSで大桃さんの作品のドローイングを撮影した動画を拝見しました。絵の具を使って直接フリーハンドで描かれる、公園で思い思いに過ごす人々の絵が一筆ごとにどんどん仕上がっていく過程は感動的で、また、いくつか解説のようなものを読むなかで、デフォルメしたり、ラフに省略して描いたりすることでリズムや軽やかさを生む効果があるといったことなども教わり、ほんの少しではありますが私にも理解できる範囲が広がったように思います。
心に残る絵、と言えばいいでしょうか。子どものときに読んだ絵本の一場面を、ずっと覚えているということが稀にあると思いますが、『ぼくらのまちにおいでよ』の絵には、そうしたことを思わせる力を感じます。
日が暮れて夜を迎えた街の美しい景色や、その翌日の楽しげな休日の公園の風景が描かれた場面も素晴らしいです。
大桃さんの絵本には、もうひとつ2021年発行の『ハムおじさん』(徳間書店)があり、こちらもとてもモダンで素敵な作品です。またこの秋には、はじめての商業作品集『ON THE CORNER 大桃洋祐作品集』(玄光社)を刊行、合わせて大きな個展も開催されました。近年は、クライアントワークより、オリジナルワークの占める割合が高くなってきているという大桃さん。次回三作目の絵本への期待も高まります。