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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.342『犬物語 柴田元幸翻訳叢書 ジャック・ロンドン』ジャック・ロンドン 著、柴田元幸 訳/スイッチパブリッシング 

蔦屋書店・犬丸のオススメ『犬物語 柴田元幸翻訳叢書 ジャック・ロンドン』ジャック・ロンドン 著、柴田元幸 訳/スイッチパブリッシング 
 
 
ぜひ、読んでもらいたい1冊。
できることなら、犬たちに。
室温管理が年中行き届き、栄養も万全、出かけるときもバギーの小型犬から、今では家の中で一緒に暮らす中型・大型犬まで。愛に溢れた彼らを「犬」と呼び捨てるには憚られ「ワンちゃん」と呼びたくなる今。
 
本書はジャック・ロンドンの短・中編の叢書で、付録的な一遍を除き、すべて犬が主人公だ。と、聴くととてもハートフルで人と犬の心温まるストーリーを想像される方も多いのではないだろうか。だが、ここに出てくる犬たちから感じるのは野生だ。家族でもなくペットでもない、使役としての犬。かといって、狼にはなりきれず、人のもとで生きる。
 
読み進めるごとに、自分が犬になっていくようだ。犬になって人を見上げる。見下ろされる目。
あるものは鞭を振るわれる。同じ境遇の犬たちも仲間とは言えず弱ければ生きられない。周囲のすべてを犬の目で見つめる。極限の地で引く橇は長い鼻でも冷たい空気が肺にまで到達し呼吸が荒くなっていきそうだ。鼻が痛い。
あるものは売られても捨てられても舞い戻る。舞い戻り人から時間や手間、金、食べ物を奪う。狡猾で悪魔のような犬。犬になりきって、口元にニタリとした笑いを浮かべながら読む。
またあるものは、使役の暮らしから抜け出しひとときだけ優しい人に出合う。頭に触れる柔らかい手に嬉しさと戸惑いを感じる。だがこの平穏な暮らしに馴染みきれない。
 
この残酷にも感じる物語に強く惹かれるのはなぜだろうか。
ギリギリの生と、犬であることを捨てない捨てられない性だろうか。いや、あくまで描かれているのは擬人化されていない犬そのものであり、言葉を持たない感情そのものからの瞬間的な身体表現。本能。
物語を通して犬は貶められてはいない。逆に、むきだした歯や隆起する筋肉に、気高さを感じるのだ。人の理解を超えるような美しさがある。
 
家庭でぬくぬくしている犬たちが、もしこの物語を読めたらどう感じるのだろう。絶叫するかもしれないし、柔らかな毛布にくるまって震えるかもしれない。でも、少しだけ憧れて、いつもよりお行儀悪くご飯を食べるのではないだろうか。
 
 
 

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