広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.308『怪物に出会った日』森合正範/講談社
蔦屋書店・竺原のオススメ『怪物に出会った日』森合正範/講談社
プロボクサー・井上尚弥。今やボクシングファンだけでなく、日頃ボクシングに親しみのない人でさえもその名を知らぬ者はいない程だ。そこまで名を馳せている理由は至極シンプルで、強い、あるいは“強すぎる”から。
戦歴を見るとそれが如実にわかる。
2012年にプロデビューを果たして以降25戦25勝、しかも尚その内22試合でKO勝ちを収めている。
野球ならホームラン、サッカーならゴールと言った具合に、各スポーツには観客を最も熱狂させる要素が存在する訳だが、ことボクシングで言うとそれはKOシーンであり、井上選手がここまでのスターになった事と、彼がほとんどの試合でKO勝利を果たしているという事実は大いに関係しているだろう。
2012年にプロデビューを果たして以降25戦25勝、しかも尚その内22試合でKO勝ちを収めている。
野球ならホームラン、サッカーならゴールと言った具合に、各スポーツには観客を最も熱狂させる要素が存在する訳だが、ことボクシングで言うとそれはKOシーンであり、井上選手がここまでのスターになった事と、彼がほとんどの試合でKO勝利を果たしているという事実は大いに関係しているだろう。
またその強さを表す評価としてPFP(パウンド・フォー・パウンド)というランキングがある。そもそもボクシングは体重別での階級制度を採用しているが、このPFPは「格闘技において、全階級で体重差のハンデがない場合、誰が最強であるか?」を指す称号であり、権威ある米専門誌『ザ・リング』の初代編集長ナット・フライシャーによって、1950年代初期に造られた用語である。井上選手はなんとこのPFPにおいて2022年に1位に輝き、それ以外のタイミングであっても常にトップに近いランクを維持しているのだ。
本作は、そういった井上選手の強さを、ある種の特別な視点から捉えた作品だ。すなわち「敗者の視点」である。
著者の森合正範氏は、新聞社・雑誌・ウェブメディアなどでボクシングをはじめとしたスポーツにまつわる記事を担当して来られ、大学時代にはあの後楽園ホールでアルバイトをしていた=ボクシングを始めとした格闘技を古くから間近で見て来たという経歴の持ち主であるが、この本のそもそもの出発点として、森合氏のこんな疑問がある。
「自分は、井上尚弥の強さが何なのか、本当に分かっているのだろうか?」
ボクシングについて書く事を仕事としている著者だからこそ考えざるを得ない命題と思うが、この作品はそんな問いに対して「井上尚弥と実際に拳を交えた人間に話を聞く」という方法でアプローチをしているのが面白いところ。
「自分は、井上尚弥の強さが何なのか、本当に分かっているのだろうか?」
ボクシングについて書く事を仕事としている著者だからこそ考えざるを得ない命題と思うが、この作品はそんな問いに対して「井上尚弥と実際に拳を交えた人間に話を聞く」という方法でアプローチをしているのが面白いところ。
ただ「敗者の視点」で書かれたと言っても、試合に負けた人のもとに赴き「井上選手、強かったですか?」と聞いて回る様な代物では決してない。
それがいかに失礼な事であるかは、著者も重々承知の上である。
そこに十分留意しつつ、それでも核心的な話を引き出して行く作中のエピソードは、正にインタビュアーとしてのプロの力量を感じさせる。
それがいかに失礼な事であるかは、著者も重々承知の上である。
そこに十分留意しつつ、それでも核心的な話を引き出して行く作中のエピソードは、正にインタビュアーとしてのプロの力量を感じさせる。
それでは一体、どんな事が語られているのか?
そこはぜひ本作を実際に手に取って読んで頂きたいが、一つだけ言えるのは、試合の結果だけ見れば彼らは確かに「敗者」であるが、勝ち負けだけでは計る事の出来ない気高さを持って、命を懸けて闘った敗者である、という事。
そこはぜひ本作を実際に手に取って読んで頂きたいが、一つだけ言えるのは、試合の結果だけ見れば彼らは確かに「敗者」であるが、勝ち負けだけでは計る事の出来ない気高さを持って、命を懸けて闘った敗者である、という事。
敗者となったボクサー一人一人に話を聞いて行くにつれ、それぞれのヒストリー、それぞれの生活、それぞれの覚悟が明らかになり、のめり込まずにはいられない。
折しも今年の12月26日に、井上選手の4団体統一戦が決まった。
当日を前にこの一冊を読めば、試合の見方が確実に変わるであろう、そんな力を持った作品である。
当日を前にこの一冊を読めば、試合の見方が確実に変わるであろう、そんな力を持った作品である。