広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.322『巣 徳島SFアンソロジー そっとふみはずす』なかむらあゆみ 編/あゆみ書房
蔦屋書店・犬丸のオススメ『巣 徳島SFアンソロジー そっとふみはずす』なかむらあゆみ 編/あゆみ書房
SF(サイエンス・フィクション)といえば、科学的な空想にもとづいたフィクションの総称で、宇宙が舞台であったり、はたまた時空を超えたりと、壮大かつスリリングなストーリーが多い。科学技術が飛躍的に進化した未来が描かれ、一方で新たな大戦などにより科学技術を手放した(手放さざるを得なかった)未来が描かれる。それぞれの作家の科学知識と創造力に、しばしば圧倒される。
だが、それだけがSFではない。
今回紹介するSFは「そっと(S)ふみはずす(F)」。SFと聞いただけで「ムリ。ついていけない」と思ってしまう方にこそお勧めしたいし、SF大好き派の人にはニヤニヤしながら「まあまあ、読んでみてよ」と手渡したい。読後にきっと一緒に盛り上がれる。
今回紹介するSFは「そっと(S)ふみはずす(F)」。SFと聞いただけで「ムリ。ついていけない」と思ってしまう方にこそお勧めしたいし、SF大好き派の人にはニヤニヤしながら「まあまあ、読んでみてよ」と手渡したい。読後にきっと一緒に盛り上がれる。
「そっと(S)ふみはずす(F)」とは、うまいなぁと一冊通して思う。どの短編も書かれているのは日常なのだが、読み進めるといつの間にか日常とはズレている。といっても、まるっきり違う異世界に迷い込むのではない。日常はあくまでもそこにあって、もう一つの世界がふわりと重なっている。踏み出した足が、思いもよらない柔らかいものを踏んでしまったような、そのうえ想像とは違う方向へ体が沈んでいくような感じ。
全て徳島が舞台というのも、「そっと(S)ふみはずす(F)」効果を引き出している。徳島の方言が、今、わたしが存在するこの時空で本当に誰かが体験しているストーリーなのではないかと思わせる。というより、わたしももしかしたら忘れているだけで、そんなことがあったのではないか。明日、目が覚めたら、いつもの通勤の道で、その角をまがったら見えてしまう世界なのではないか。どんどん、ストーリーとわたしの体の境界線が曖昧になってくる。
全て徳島が舞台というのも、「そっと(S)ふみはずす(F)」効果を引き出している。徳島の方言が、今、わたしが存在するこの時空で本当に誰かが体験しているストーリーなのではないかと思わせる。というより、わたしももしかしたら忘れているだけで、そんなことがあったのではないか。明日、目が覚めたら、いつもの通勤の道で、その角をまがったら見えてしまう世界なのではないか。どんどん、ストーリーとわたしの体の境界線が曖昧になってくる。
『巣』は、ひとり出版社・あゆみ書房から出版されている、徳島で暮らす女性たちの文芸誌だ。第2号である『巣 徳島SFアンソロジー そっとふみはずす』も、徳島で暮らす作家と徳島ゆかりの作家が参加している。
どれもムチャクチャおもしろくて、全ストーリーおすすめしたいのだけれど、あゆみ書房の主宰であり作家でもある、なかむらあゆみさんの「ぼくはラジオリポーター」はグッときた。SFでほろりと泣かされるとは…。
どれもムチャクチャおもしろくて、全ストーリーおすすめしたいのだけれど、あゆみ書房の主宰であり作家でもある、なかむらあゆみさんの「ぼくはラジオリポーター」はグッときた。SFでほろりと泣かされるとは…。
多くのリスナーに愛されていたラジオリポーターのミチは、母親の死を機に仕事を辞めてしまっていた。そんなミチをラジオまつりの特別企画で2日間だけ復活させたいと、放送局から依頼が届く。気乗りしないミチの気持ちを変えたのは、ルルという少年からの手紙だった。ルルとミチはラジオカーに乗って、暮らしの身近な話題を生中継でリポートする。初リポートで緊張するルルを優しくサポートするミチ。
ルルはどこか子犬のようなイメージの少年だ。人懐こそうでよくしゃべる。そんなルルの体には不思議な特徴があった。その特徴は、目にすれば怖くなったり、見なかったことにして目を背けるかもしれない。だが、ルルがその特徴を告白すると、ミチはあるがまま受け止める。なかったことにするのではなく、その特徴を否定せず、特徴を持つルルをルルとして肯定している。読み進めていくうちに、実は見えていないだけで、わたしにもその特徴があるのではないかと思えてくる。しかも、ある方がよいことのように。
母親の死の苦しみから抜け出せていないミチと、家族の中で辛さを抱えていたであろうルルの出会い。二人の出会いにはこれから先へ続く希望を感じる。思い悩むことは消えなくても受け入れて前へ進んでいく二人が見えるのだ。
ルルはどこか子犬のようなイメージの少年だ。人懐こそうでよくしゃべる。そんなルルの体には不思議な特徴があった。その特徴は、目にすれば怖くなったり、見なかったことにして目を背けるかもしれない。だが、ルルがその特徴を告白すると、ミチはあるがまま受け止める。なかったことにするのではなく、その特徴を否定せず、特徴を持つルルをルルとして肯定している。読み進めていくうちに、実は見えていないだけで、わたしにもその特徴があるのではないかと思えてくる。しかも、ある方がよいことのように。
母親の死の苦しみから抜け出せていないミチと、家族の中で辛さを抱えていたであろうルルの出会い。二人の出会いにはこれから先へ続く希望を感じる。思い悩むことは消えなくても受け入れて前へ進んでいく二人が見えるのだ。
「そっと(S)ふみはずす(F)」ストーリーは、こころに「静かに(S)ふれる(F)」でもある。
それは、新しくて懐かしい。
それは、新しくて懐かしい。