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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.241『ゲナポッポ』クリハラタカシ/白泉社

蔦屋書店・佐藤のオススメ『ゲナポッポ』クリハラタカシ/白泉社
 
 
人気絵本作家のヨシタケシンスケさんは、『ゲナポッポ』の作者クリハラタカシさんの大ファンだそうで、本書の帯の推薦文も書かれています。
 
曰く「ああ。教えておくれ、ゲナポッポ。ぼくは一体、何ポッポなんだ。」 「ゲナおもしろい!ポッポ界の最高傑作!!」…熱いコメントから、ヨシタケさんの興奮が伝わってきます。
 
また、ヨシタケさんは2020年テレビ出演した際も、おすすめの本としてクリハラさんのコミック『冬のUFO 夏の怪獣』(ナナロク社)を挙げ、「僕がもし神様だったら、この本を持っている人をまず先に救う」と話されるなど、その心酔ぶりに興味を持たれた方も多かっただろうと思われます。
 
残念ながら私は、神様に救われる側になれるほど、クリハラさんのセンスを理解できているとは言えないのですが、『ゲナポッポ』という、絵本でもありマンガでもあるような不思議な存在感をもつこの本は、すごくステキだなあと思います。そして、この本を実際に手にとれば、きっと多くの方が同じように感じるのではないかとも思います。
 
とはいえ「なんか好きかも」といった感覚的な動機がいちばんぴったりきそうなこの本の魅力を、どれだけお伝えすることができるのか…とりあえず、自分がいいなと感じたポイントをいくつか挙げてみようかと思います。
 

まず第一印象として、A5版ハードカバー装丁で厚み約1㎝という、コンパクトなサイズがかわいい。
昨今の絵本としては少数派の、縦組み右綴じ方式です。中を開いてみれば、コマ割り・ふきだしが使われたマンガ仕様になっていて、ちょっとした特別感があります。
 
それから、これは本書ビジュアル面で最も目を引く特徴とも思いますが、全ページ通じた、きれいなパステルトーンの色合いのレイアウトもかわいい。
絶妙なユルさが何ともキュートなイラストは、コマごとに背景や洋服の配色が入れ替わっていたりしてとてもカラフル。気分を明るくしてくれるような、ポップでデザイン性のある絵です。
また、絵柄そのものの素朴な佇まいのせいでしょうか、どこか懐かしさを感じさせる雰囲気が漂うのも、味わい深く素敵です。
 

そしてお話について。まずは気になる、「ゲナポッポ」とは一体何なのか?
表紙にも描かれている不思議な形の白い浮遊体。これがゲナポッポです。こう見えて、人の望みも叶えれば、地球の位置を動かしもする、人智を超えたすごい力の持ち主なのですが、その割にはしょっちゅう干からびて道に落ちていたり、鳥や犬に襲われて困っていたり…ちょっと情けない一面もある、親しみやすい生きものです。
 
本の形式としては、一話あたりほぼ見開き1・2ページ完結の短編集になっており、主人公ゲナポッポの日常を切り取ったエピソードが、全部で20話ほど収録されています。
 
話がどこに転ぶか分からないシュールな展開と、そこに漂うのどかで飄々とした雰囲気。ゲナポッポの作風を、ナンセンス絵本の大家である長新太さんになぞらえる声もあります。
ただ、長新太さんのそれが、作中人物の性格造形よりもストーリー展開の不条理さが際立つ傾向にあるのに対し、『ゲナポッポ』では、ゲナポッポというキャラクターの個性がよりクローズアップされたお話作りが為されているように思います。そうしたところは、よりマンガ的です。
 
ゲナポッポの個性、というのを言い表すとしたならば、「悠久の宇宙を連想させるSF的で玄妙な生命体、という趣ながら、当の本人は全くもったいぶったところのない素直な性格。どことなく品のある、礼儀正しくあっさりした物言いが好ましい。」といったところでしょうか。
 
例えば、あるとき空で鳥の一群についばまれ逃げてきたゲナポッポは「あーひどい目にあった」と呟きながら、ふと考えます。「しかし…ワタクシってそんなにオイシイのかしら?」そして自分の手(?)をペロリとなめて一言
「あっ オイシイ!」
…何でしょう、ゲナポッポ。小さな子どものようなピュアな言動が、妙にかわいいのです。
 
かわいらしくて面白いゲナポッポですが、この本のなかで私がいちばん好きなのは、思いがけず、息をのむような詩的な描写に出会えるところです。
 
ある一場面。
野原で昼寝をしているゲナポッポ。そこにポツポツ雨が降ってきます。
夢うつつでウトウトしながら、ゲナポッポはハッとします。
からだに当たった雨粒のなかに、特別なひとつぶがあったのです。
それは、はるか遠く百年むかしのある日、自分が流した涙のひとしずくなのでした。
 

一冊の本が、読者の前に差し出すひとつの世界。
ゲナポッポの愉快なお話は、独特な世界が立体的複合的に広がる豊さも持っており、一冊で終わってしまうのが名残惜しいようで、続編を望む声が多いのも頷けます。
マンガ家であり絵本作家でもある作者が、マンガと絵本それぞれの枠組みを往き来するようなかたちで作った本書には、この形式だからこそ表現し得ているものが、きっとあるのだと思います。
 
 
 
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