広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.223『二ひきのこぐま』イーラ作 松岡享子訳/こぐま社
蔦屋書店・佐藤のオススメ『二ひきのこぐま』イーラ著 松岡享子訳/こぐま社
児童書のジャンルに、写真絵本と呼ばれるものがあります。
いきものの生態や植物のディテールなどを写真でとらえて説明する、子ども向けのいわゆる科学絵本によくみられるものです。
しかし今回ご紹介する『二ひきのこぐま』は、写真絵本ですが、科学絵本ではありません。こぐまのきょうだいを主人公にした可憐で微笑ましい冒険が、写真とあわせて語られる、おはなしの絵本です。
いきものの生態や植物のディテールなどを写真でとらえて説明する、子ども向けのいわゆる科学絵本によくみられるものです。
しかし今回ご紹介する『二ひきのこぐま』は、写真絵本ですが、科学絵本ではありません。こぐまのきょうだいを主人公にした可憐で微笑ましい冒険が、写真とあわせて語られる、おはなしの絵本です。
ある日、お母さんに留守番しておくように言われたのを忘れて外で遊ぶのに夢中になったこぐまのきょうだいは、おうちが分からなくなってしまいます。
二匹はがんばって帰り道をさがしますが、なかなか見つかりません。くたびれ果てて眠ってしまったこぐま達は、一体どうなるのでしょう…。
二匹はがんばって帰り道をさがしますが、なかなか見つかりません。くたびれ果てて眠ってしまったこぐま達は、一体どうなるのでしょう…。
この絵本の作者イーラは、1911年生まれの女性写真家。本作は、彼女が写真・文ともに手掛けた最初の絵本です。世界初の動物専門写真家といわれる人物で、アメリカを拠点に各国を旅して撮影を行い、1955年インドで牛車レースの撮影中の事故に遭って亡くなるまで、数多くの作品を生み出しました。彼女の優れた仕事は、動物写真の古典的名作として高い評価を受けています。
尚、現在ネコを中心とした魅力あふれる動物写真で知られる岩合光昭さんは、中学高校時代に傾倒した写真集として、イーラの本を挙げています。
イーラの、動物たちの自然な姿を見事にとらえた美しいモノクロの写真は、この絵本最大の見どころと言えるでしょう。
尚、現在ネコを中心とした魅力あふれる動物写真で知られる岩合光昭さんは、中学高校時代に傾倒した写真集として、イーラの本を挙げています。
イーラの、動物たちの自然な姿を見事にとらえた美しいモノクロの写真は、この絵本最大の見どころと言えるでしょう。
ところで、この作品には、通常の「人の手で描かれた絵を使った絵本」にはない特徴があります。それは、撮影された中の一枚の写真を、お話の一場面に当てはめる「見立て」を用いて、絵本が作られているという点です。
では作品内で、どのような写真を使って見立てが為されているかを、具体的に少しご説明します。
では作品内で、どのような写真を使って見立てが為されているかを、具体的に少しご説明します。
例えば、《雑木林の中、お互いに少し離れた場所にいるこぐま達が、木の幹に両方の前足をそえて立っている写真》は、「林の中でかくれんぼをして遊ぶ場面」として。
また、《枝にとまって大きく羽を動かし鳴くカラスと、その正面で身をすくませているこぐまの写真》は、「お母さんのいいつけを忘れてしまったことを、カラスに叱られている場面」として、用いられています。
また、《枝にとまって大きく羽を動かし鳴くカラスと、その正面で身をすくませているこぐまの写真》は、「お母さんのいいつけを忘れてしまったことを、カラスに叱られている場面」として、用いられています。
写真に撮ったものを何かに見立てる。想像をふくらませてお話をつくる。『二ひきのこぐま』を読んでいると、作者イーラが、とりわけ熱心にこの作業に取り組んだであろうことが伝わってくる気がします。中には「私なら、どう見立てよう?」と思いを巡らす読者もいるかもしれません。…それがいかに楽しいことであるか、私たちは知っているのです。
この絵本には、そうした「見立てることを足掛りにして、そこから自由に物語を作り出す」という行為そのものを、読み手の心に呼び起こすはたらきがあります。そしてこれはあくまで私個人の考えですが、そのような意味で『二ひきのこぐま』は、他の絵本にはない独特の力を持つ作品である気がします。
小さな子どもは、ごっこ遊びをします。ソファーをバスに見立てる。葉っぱに載せた木の実をごちそうに見立てる。それは教わってすることというよりも、私たちが生来自然に求めて行う心の動きのように思えます。
児童文学の傑作『モモ』には、「見立てること」が何度も繰り返し出てきます。
例えば、主人公モモが住む円形劇場を大きな船に見立てた子ども達のごっこ遊びの描写は、独立した冒険物語のように、一章まるごと続きます。
また、モモの親友である旅行ガイドのジジは、やはり円形劇場を、巨大な水槽や球を載せる土台に見立てた奇想天外な物語を即興で作り出し、それを訪れた観光客に披露する、お話づくりの天才です。
例えば、主人公モモが住む円形劇場を大きな船に見立てた子ども達のごっこ遊びの描写は、独立した冒険物語のように、一章まるごと続きます。
また、モモの親友である旅行ガイドのジジは、やはり円形劇場を、巨大な水槽や球を載せる土台に見立てた奇想天外な物語を即興で作り出し、それを訪れた観光客に披露する、お話づくりの天才です。
それから、これはあまり適切な例ではないかもしれませんが、心療カウンセリングの現場で行われる箱庭療法のことも、頭に浮かびます。
何かを想像する、或いは、自分の内にある物語を解放するような心のはたらきに於いて、見立てることは、ある種の“スイッチ”のような役割を果たすことがあるのかもしれません。
そして、見立てることにそのような、単なる幼稚な行動として片付けられない、人の根元的な部分に関わる何かがあるとしたら、『二ひきのこぐま』に含まれる不思議な引力のようなものの正体が、少し見えてくる気がします。
そして、見立てることにそのような、単なる幼稚な行動として片付けられない、人の根元的な部分に関わる何かがあるとしたら、『二ひきのこぐま』に含まれる不思議な引力のようなものの正体が、少し見えてくる気がします。
最後ご紹介するのが遅くなりましたが、この作品の大きな魅力として、松岡享子さんの素晴らしい訳文があります。
例えば、草原のタンポポに顔を近づけたこぐまの写真に、松岡さんは次のような文章を添えています。
二ひきは、たんぽぽのわたげを みつけ
そっと においを かいでみました
ちょっと おあじも みてみました
そっと においを かいでみました
ちょっと おあじも みてみました
磨き上げられた、シンプルな日本語の美しさ。
小さな存在への慈しみに満ちた松岡さんの言葉は、心の中にやわらかな灯りが点るような安らぎを、私たちに与えてくれると思います。
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