広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.123

蔦屋書店・江藤オススメWATCHMEN ウオッチメン』アラン・ムーア作 デイブ・ギボンズ画/小学館集英社プロダクション           
 
 

さて、今日はみなさんにどうしても紹介しておきたい本があります。

長いお話になるかもしれませんが、ぜひお付き合いください。

 

今回紹介する本は、アメリカンコミックの最高峰とも言える作品、アラン・ムーア原作の『WATCHMEN』です。

 

では、この作品の凄さをわかりやすく説明しますね。

SF作品に与えられる世界で最も権威のある賞とも言われるヒューゴー賞というのがあります。そのヒューゴー賞をコミックとして唯一受賞しているのがこの作品なのです。

さらに、アメリカの超メジャーニュース雑誌の『タイム』が選ぶ1923年以降に発表された長編小説ベスト100にも選ばれています。コミックなのに!

 

原作者のアラン・ムーアは、アメリカンコミックというジャンルに、大人向けの文学性を持ち込んだ人物として高い評価を受けている人物です。

そのアラン・ムーアが約4年の歳月をかけて作り上げたのが『WATCHMEN』という作品です。

 

この物語は、ある男が殺害されるところから幕が開きます。

その男は、実はコメディアンという名前のスーパーヒーローでした。その殺害事件をしつこく調査し始めるのは、コメディアンのかつての仲間であった、ロールシャッハという非常に不気味な、ヒーローです。ロールシャッハは独自に調査を進めます。そしてヒーロー狩りが始まっているのではという仮説を立て、昔の仲間を訪ねて事件の真相を調べていく。というのが物語の大きな流れです。

 

ここで、説明しておきますと、この物語世界では、コスチュームを着たスーパーヒーローというのが実在しています。彼らがいるとして世界が構築されています。

(といっても、彼らスーパーヒーロはみんなすごい超能力があるわけではなく、腕っぷしが強いとか、めちゃくちゃ頭がいいとか、お金持ちで発明好きとか、そんなもんですが、、、でも、ひとり凄い能力者がいます、DRマンハッタンです。彼については後に説明します。)

 

物語の舞台となるのは1985年のアメリカです。

この1985年というのが、どんな年かといいますと、冷戦が終わった年です。

最終戦争に向けて緊張感の高まるアメリカにスーパーヒーローがいたら、いったいどうなるのか、というのもこの物語の重要なポイントでもあります。

 

この作品に出てくるヒーローで私が一番好きなのは、DRマンハッタンです。彼はあまりにも最強すぎる存在で、彼がいることによってソ連軍は侵攻できないという状況にもなっています。彼はもともと核融合とかを研究している研究所で事故にあって身体が蒸発してしまった研究員です。しかし彼は、分子や原子を再構築して自分を再生させてしまうのです。どんな物質でも作れますし、巨大化もしますし、テレポートもできます、更には時間の概念もなく、未来もすべて知っているみたいです。物語の途中では、火星に行って城をたてて住んだりもするそうとうヤバいやつです。

彼も先に出てきたロールシャッハなどと昔はチームとなって悪と戦っていました。

 

その彼らの世代の前にもヒーローたちはいました。なので、1985年にいるヒーローたちは、2代目ナイトオウルだったり、2代目シルクスペクターだったりします。初代がいるのです。その初代メンバーの中には、殺害されたコメディアンもいたわけです。

 

つまり、この物語の発端は、初代たちが誕生する1961年まで遡るのです。

この物語の舞台となるのは1985年10月から1985年12月までのたった2ヶ月の出来事なのですが、実はとても長いスパンで語られるべき物語なのです。

 

その初代スーパーヒーロたちが活躍していた時代は、牧歌的というか、彼らの活躍がある程度喜ばれていたころです。

しかし、物語の舞台となる1985年は彼らの活動が社会全体からあまり喜ばれていません、得体のしれないコスチュームを着たやつらが自警団のようなことをして夜な夜な暴れまわっている、といったような悪いイメージで嫌われていたりもします。

そしてヒーロー活動は法律で禁止されました。

 

そんな時代背景の中、かつてのヒーローたちが殺されていきます。ロールシャッハの仲間たちも殺害されたり襲われたりしていきます。いったい黒幕はだれなのか、そしてその目的とはいったいなんなのか。

これがこの物語の一番大きな謎で、ストーリーを引っ張っていく力となります。

 

そして、この本を読む上で一番面白いのは、この謎を解くための伏線が、コマのありとあらゆるところに散らばっているというところです。

最初に読んだときは全く気が付かないのですが、途中で振り返って読み直してみると、こんなところに!という発見が結構あります。そして、最後まで読んでもう一度読むとさらに驚愕です。何しろ一コマずつの情報量が異常に多い!

驚くべきことに、物語が始まったばかりの1ページ目に、ラストで明かされる最大の黒幕を暗示する絵が既に書き込まれていたりするのです!

 

『WATCHMEN』は全12章の物語です。

それぞれの章の始まりには時計が表示されていて、12時に向かって進んでいきます。

世界の終末を表す12時が刻々と近づいてくるのです。

最終戦争が始まり、この物語の最後に世界は終わってしまうのでしょうか。

 

実はこの世界の終わりが近づいているということと、ヒーロー狩りには関連があります。

この2つの出来事の関連とはいったいなんなのでしょう。

 

私は、今回この本を読み返していて、ちょっとギョッとしてしまいました。

今のコロナウイルスが蔓延するこの現実世界となにかしらリンクするところがあると感じられたのです。

 

しかし、この物語の中で語られる「ある事」と、「コロナウイルス」には、世界に及ぼす決定的なある違いがありますので、同一には語れませんが、なにか奇妙なシンクロを感じてしまいました。

 

世界の終わりを回避するためにはどうしたらいいのか。

最終戦争に向かいつつある冷戦を決定的に終わらせるためにはいったいなにが必要なのか。

そしてそこで生じてしまう犠牲はどれだけのものなのか。

 

この本を読んだ後、あなたはこの質問への「ある答え」を得ることでしょう。

そして、現実の状況をまた違う目で見ることが出来るかもしれません。

 

なかなか読むのが大変で時間もかかる本ではあります。

でも、そこで尻込みしないで欲しいのです。

絶対に読んで損はさせません。

時間をかけてじっくり読み通してみてください、最高に面白い本、そして知らなかった新しいジャンルの楽しみを発見することになるのですから。

 

海外コミックの世界へようこそ。

 

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