広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.115
蔦屋書店・江藤のオススメ『薪を焚く』 ラーシュ・ミッティング 晶文社
最近はソロキャンプがはやっているらしい。
子どもの頃から釣りが好きだった私は、海に川に池にと駆け回ってはあらゆる場所で遊んでいた。
なので、もともとアウトドアは好きだったのだが、ひとりでキャンプに行くという発想はなかったものだから、とても新鮮に感じて、早速やってみたのです。
そうしたら。
すっかりはまってしまいました。
数人で出かけるキャンプは、準備や計画だけで、すでにめんどくさい。
予定を合わせて、時間を決めて、全員分の道具を用意しなければいけない。
それがひとりなら、行きたいときにふらっと行けるのだ。
バックパックにひとり分の道具を詰め込んでおけば、それだけで出かけられる。
他の人のことはなにも気にしなくていい。自分だけなのだから。
最高に自由なのだ。
バックパックにひとり分の道具。これがまた楽しい。
ある程度の道具が入って、でも機動力も確保したい。
そこで私が使っているのは、モンベルの「チャチャパック35」だ。
35リットル以上になると大きすぎて機動力が落ちるし、これ以下だと荷物が入りきらない。ちょうどいいサイズだ。
キャンプにいくなら肉を焼きたい。
焚き火で焼くのもいいのだが火力調整ができた方が初心者には向いている。
できるだけコンパクトで使いやすいものとなると、SOTOの「レギュレーターストーブ」がいい。
どこでも手に入るカセットボンベが使えるのもポイントだが、一番はその見た目のかっこよさだ。
機能性だけを追求して、さらに軽量化も考え、そぎ落とされたそのフォルムはレーシングマシンのような美しさをまとっている。
肉を焼くための鉄板にもこだわりたい。
ここでは、携帯性のよさとその信頼性、さらに鉄板を育てるという楽しみも味わえる「ヨコザワ鉄板」を使おう。
何の変哲もないただの四角い鉄板。曲げてもないし、穴もあいていない、ただの分厚い鉄の板なのだが、なぜかこの鉄板で焼いた肉は美味い。
そして、キャンプでの一番の楽しみはなんといっても焚き火だ。
最初は、SOTOの「ミニ焚き火台 テトラ」を使ってみた。ステンレスの板を数枚組み合わせて作る小さな焚き火台で、そこら辺で拾った小枝を燃やすとなかなか楽しかった。
しかし、小さすぎる。
次にはもう少し大きい、SOTOの「ミニ焚き火台 ヘキサ」を使ってみた。
こちらも小枝ぐらいしか燃やせないが、なかなか大きな火を作ることができて、湯も沸かせる。
このあたりで、すっかり焚き火の楽しさに魅了されてしまった私は、やはり薪を使ってみたいと思い始める。
そこで手に入れたのが、ソロキャンプ好きにはおなじみの「ピコグリル398」だ。
これもまたステンレスの薄い板と細いパイプだけで出来ているので、とても軽く持ち運びやすいのだが、とてもよくできていて、35センチぐらいの薪なら余裕で使える。
今までのものとは違ってじっくり長く焚き火を楽しめるようになった。
ここでさらに、薪に興味を持った私は、ホームセンターで買う薪には満足出来ず、良質な薪を求めて遠方まで買いに行く事になったり、太めの薪を割るために、斧を手に入れたり、ライターを使うよりもこれだ!ということで、ファイヤースチールで火起こしをしたりと、ズブズブとキャンプ沼にはまっていくのだが、それはまた別の話。
さて、ある程度の太さの薪を使えるようになると、火持ちがいいので、ゆったり焚き火を楽しめるようになるのです。
お気に入りのチェアに座って、焚き火を眺める最高の時間が流れていく。
お、本が読めるな。
そこで開いた本が『薪を焚く』ラーシュ・ミッティング(晶文社)
表紙も素晴らしければ、装丁も美しい。
ノルウェー出身の著者が、ひたすら薪について書いた本だ。
薪の作り方、森からの切り出し方、種類、薪棚の積み方、道具についてなどなど。
私はノルウェーに行ったこともないし、行く予定もないし、おそらく今後自分で木を切り倒して薪を作って、薪棚で乾燥させることもないので、何の役にもたたない本ではある。
しかし、焚き火の前でのんびりと読む本としては最適すぎるのだ。
私はコスパという言葉が嫌いだ。嫌悪していると言ってもいい。
人生をより味わい深くするために必要なものこそが「無駄な事」だと思っている。
わざわざ不便な山の中に行って、最小限の道具で過ごす。
マッチやライターをあえて使わず、金属をこすって火花をちらして火を起こす。
便利な要素がなにもないただの鉄の板を使って肉を焼く。
不便や困難はこんなにも楽しく豊かな時間を作ってくれる。
そしてまた、本を読むという行為も、スマホで情報を得ることや動画を見ることに比べると、「効率が悪い」=「コスパが悪い」のかもしれない。
しかも、この先ほぼ使うことがないであろう薪棚の作り方についての知識を得るという行為、まさに無駄の極みだ。
だが、これが人間らしく生きるということなのではないだろうか。
スイッチを入れて電気で暖まるよりも、焚き付けから火を育て、薪を焚いて暖まりたいのだ。
コスパを追求する生き方は、いわば本能だけに突き動かされて生きている動物と同じではないだろうか。
無駄を楽しむ、不便を喜ぶ、それが豊かな人生を作るのであれば
読書なんていうものは人生を豊かにするための最高の遊びということになる。
おもしろきこともなき世を面白く
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