広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.118

蔦屋書店・江藤のオススメ『ホテル・アルカディア』石川 宗生 著/集英社

 

 

世界は物語であふれている。
いや、そうじゃない。

世界があって、そこに物語がある。
と思いがちだがそれは思い違いで

物語こそが世界を創りあげているのだ。


石川宗生は、恐ろしい作家だ。
デビュー1冊目からずば抜けていた。
あまりの衝撃に、かなり熱くこのページで激推ししたのを覚えている。

詳しくはこちらのリンクを読んでもらいたいのだが
https://en.store.tsite.jp/hiroshima/news/t-site/1755-1057220219.html
ある日突然、吉田が大量に増える話だったり、家が半分なので生活が丸見えの家族の話とか、バスがこないバス停でバスを待つ人たちが社会を作り町が出来る話とか。
とにかくその発想がすさまじいし、その発想を物語に昇華させる力もとんでもなかった。

デビュー作である1冊目は短編集だった。
そして、満を持しての2冊目は長編だという。
石川宗生の書く長編だと!?いったいどんなことになるんだ???
とかなり期待していたのですが、読んでみて驚きました。

短編がより短くなっている!!!
もはや、掌編と言うべきではないのか。
これが長編といえるのか。
さすがの裏切りです。素晴らしい!

さて何でこんな事になったかというと。
いわゆる、千夜一夜物語なんですね、あるいはデカメロンか。
ホテル・アルカディアの支配人の一人娘、プルデンシアが敷地のはずれのコテージに引きこもってしまいます。彼女をそこから誘い出すために、ホテルに投宿していた芸術家7名が自作の物語を語り始める。
ということですが、正直このあたりはどうでもいい(ことはないですが)。

大事なのは語られる掌編です。
せっかくなのでどんな話があるのかちょっとあげてみましょうか。

「べつにお邪魔はしないさ」と言って、ベッドの上に居座る本の挿絵との共同生活の話。

アンジェリカと呼ばれる、美しい羽根の生えた生き物にお茶を振舞う話。

大洪水が起こるというので作った船に乗せる動物を選ぶために殺し合いをさせる話。

紙に書かれた掌編でできた世界でそれらを読む話。

町になっている超高層建築物をひたすら登り続ける話。

 

こんな話が20ぐらい詰まっている。
どれもこれも読み始めたらやめられないぐらい面白いのだが、訳が分からない。
読んだ端から忘れてしまう、どんな話だったのか思い出せない。
この感覚、なんか知っているなと思ったら、夢でした。
夢を見ている間はめちゃくちゃ面白いのだが、目が覚めるとすっかり忘れていて思い出せない。

 

そう、思い出せないのだ。
なぜか。
理解の範疇を超えているから。

 

「ベッドの上に居座る本の挿絵が野を駆け巡って小動物を狩ってきて食べている」
文字では書けるが、それ以上どうにもできない。
文字を読んで物語の中の話として受け入れることはできるのだが、全く映像が浮かばないし、自分が知っている常識に照らし合わせてみても、あり得なすぎて理解が追いつかない。

 

理解できないのだが、だからと言って油断してはいけません。
本文からすこし引用させてもらうと。
 <ほんのちょっとだけ、本当のことも混ざっているの。>


このコーナーで幾度となく問い続けてきた疑問がある。
人はなぜ物語を創るのか。
そして
なぜ物語を求めるのか。

その答えのひとつを見つけたような気がする。
いや、この本の中で、かなり芯を食った答えをついに見つけたのだ。

見つけた!というのは覚えている。
そう、間違いなく掴んだ。これだ!と確信した。
でも、何を見つけたのかは覚えていない。

あ、でも、ひとつぼんやり覚えているのは
物語がこの世界を創ったから人は物語から逃れられない...

だったっけ?

 

 

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