広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.34
蔦屋書店では色々なフェアをやっている。
アクセサリーや雑貨など、期間限定の素敵な作品が並んでいて、今回のフェアではどんなものがあるのだろうと、毎回見てまわるのが楽しみのひとつだ。
そのフェアならではの魅力的な商品を見つけるのも楽しいが、一緒に並べられた本を見るのがまた楽しい。
本を選ぶのは、書店員だったり、書店員以外の人のこともある。
今まで知らなかった本との素敵な出会いがあればワクワク感が止まらないし、以前から知っているお気に入りの本をそこに見つけたら、その本を選んだ人との距離感が一気に縮まったような気がしてすごく嬉しい。
先日、美味しいお店のオーナーさんが選んだ、フェア台に並ぶいくつかの本の中から、パッと目に飛び込んできた色鮮やかな表紙と題名に惹かれてその本を手に取った。
それは、初めて見る絵本だった。
まだ、あまり人のいない朝の静かな書店で、この絵本のページをゆっくりとめくった。
昔見たような、懐かしい世界に引き込まれていくような素朴な挿し絵と、うちだややこ(内田也哉子)さんによる美しく優しい言葉で紡がれた翻訳が心地よい。
その言葉は、私の心の奥にじゅわっと染み込んでいく。
身の回りの色々なものにとって『たいせつなこと』とは何かが、ひとつひとつ丁寧に描かれている。
スプーン、ひなぎく、あめ、くさ、ゆき、りんご、かぜ、そら、くつ、そして、コオロギ、グラス…。普段何気なく見たり感じたりしているものが新鮮な感じさえする。
読み進めていくと、ときには良い香りがして、ときには冷たくて、ときには甘くて、ときにはあたたかい。
スプーンはスプーンで、ひなぎくはひなぎくーそれは何も特別なことではなくて、当たり前のこと。当たり前だけど、つい見失ってしまいそうになっていることのように思える。
そして、最後に書かれているのは、「あなた」にとって『たいせつなこと』ー。
私は、この絵本がこれからもたくさんの人たち、色んな世代の人たちに読み継がれていくといいな、と思う。
お子さんのいらっしゃる方は、親子(お孫さんと)で一緒に絵本の世界を楽しんでほしい。
子どもだけでなく大人の方にも、子育てや、人との関わり方、自分を見つめ直すための何かヒントとなるようなことが見つかるかもしれない。優しくて力強い、その言葉の持つ力が、背中をぽんと押してくれるかもしれない。
私はいつでも手の届くところに置いて、美しい言葉の響きにうっとりしたいとき、そして、前へ一歩踏み出したいときこの本をそっと開きたい。
この本を選んだ人はどんな人なのだろう。
どんな料理を食べさせてくれるのだろう。
この本を選んだ人にいつか会ってみたい!
そんなことを考えてみるのもまた楽しい。