広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.256『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』椎名 美智/KADOKAWA
蔦屋書店・犬丸のオススメ『「させていただく」の使い方 日本語と敬語のゆくえ』椎名美智/KADOKAWA
何年か前からやたらと耳にする「させていただく」。
使い勝手がよいのに、聞くとなんだか「んん?」っと、違和感を覚えてしまう人は多いのではないだろうか。
使い勝手がよいのに、聞くとなんだか「んん?」っと、違和感を覚えてしまう人は多いのではないだろうか。
著者の椎名さんは、『「させていただく」の語用論—人はなぜ使いたくなるのか』(ひつじ書房)という「させていただく」の語用論研究の書籍を本書に先駆けて出版されていた。
語用論とは、言語学の一分野で言葉が実際のコミュニケーションの中でどのように使われているのか、また使われながらどのように変化していくのかなどを研究する。
「させていただく」の研究に興味はあったが、ガッツリとした学術書でもあるのでなかなか手が伸びなかった。だが、そこから美味しいところだけつまみ食いできるような、楽しくてわかりやすい内容になり新書で出版されたとなれば、まずはこちらからと、ぜひとも読んでみたくなる。
語用論とは、言語学の一分野で言葉が実際のコミュニケーションの中でどのように使われているのか、また使われながらどのように変化していくのかなどを研究する。
「させていただく」の研究に興味はあったが、ガッツリとした学術書でもあるのでなかなか手が伸びなかった。だが、そこから美味しいところだけつまみ食いできるような、楽しくてわかりやすい内容になり新書で出版されたとなれば、まずはこちらからと、ぜひとも読んでみたくなる。
本書は「させていただく」の正しい使い方というのではなく、例えるなら、「させていただく」という言葉の子どもがどのように生まれて、社会の中でどのように生きていて好かれて嫌われて揉まれ変わってきたのかを追う、「させていただく」の大河ドラマのような一冊だ。
かつ、氾濫している「させていただく」を否定するのではなく、言葉の変化に現れる社会や人間関係の変化を観察、分析し、解説してくれる。読み終えると「させていただく」に対しての新たな発見に驚くとともに誤解がとけ、この言葉の健気な頑張りに、これからは優しく接しようとさえ思ってしまうのだ。
かつ、氾濫している「させていただく」を否定するのではなく、言葉の変化に現れる社会や人間関係の変化を観察、分析し、解説してくれる。読み終えると「させていただく」に対しての新たな発見に驚くとともに誤解がとけ、この言葉の健気な頑張りに、これからは優しく接しようとさえ思ってしまうのだ。
まずは、街中で観察・採集された「させていただく」の話から始まる。
「飲食は禁止させていただいております」
「終了させて頂きます」
「ポイントを進呈させて頂きます」
どうだろうか。「そうそう、これなんだか違和感」という人もいるだろうし、「特に違和感はない」という人もいるだろう。用例として載っていると、「そうか、おかしいのか。使わないほうがいいのかな」と考えてしまう人もいるかもしれない。
おもしろいのは読む・聞くと違和感があっても、いざ、言う・書くとなると使ってしまうところだろう。「終了しました」というのは、なんだか相手に偉そうに伝わりそうとか、強めな言い方になってしまって相手に失礼なのではないかと思ってしまうのだ。これは、心当たりがあるのではないだろうか。そんなとき「終了させて頂きます」という言い方はとても便利なのだ。
「飲食は禁止させていただいております」
「終了させて頂きます」
「ポイントを進呈させて頂きます」
どうだろうか。「そうそう、これなんだか違和感」という人もいるだろうし、「特に違和感はない」という人もいるだろう。用例として載っていると、「そうか、おかしいのか。使わないほうがいいのかな」と考えてしまう人もいるかもしれない。
おもしろいのは読む・聞くと違和感があっても、いざ、言う・書くとなると使ってしまうところだろう。「終了しました」というのは、なんだか相手に偉そうに伝わりそうとか、強めな言い方になってしまって相手に失礼なのではないかと思ってしまうのだ。これは、心当たりがあるのではないだろうか。そんなとき「終了させて頂きます」という言い方はとても便利なのだ。
この、「便利だが違和感」について700人に意識調査を行っている。「性別」「年齢」「話し手/聞き手」に分け、違和感のレベルを5段階に設定しアンケートを実施。予想としては年齢層と比例して違和感が大きくなるのではと思っていたが、結果は意外なものだった。このあたりは、とてもおもしろいので読んで確かめてほしい。
他にも「させていただく」がいつから使われてはじめ、どのように勢力を拡大したのかの言葉の歴史は、「させていただく」をなんだか応援したくなる。
また、身分制度が無くなった社会での敬語は、コミュニケーション上で相手との距離を保つ役割を担っているという。確かに、敬語を使った距離感がちょうどよく感じることも多い。
そしてついには違和感の正体も明らかになる。
新書といえども、驚きに満ちた読み応えのある一冊なのだ。
他にも「させていただく」がいつから使われてはじめ、どのように勢力を拡大したのかの言葉の歴史は、「させていただく」をなんだか応援したくなる。
また、身分制度が無くなった社会での敬語は、コミュニケーション上で相手との距離を保つ役割を担っているという。確かに、敬語を使った距離感がちょうどよく感じることも多い。
そしてついには違和感の正体も明らかになる。
新書といえども、驚きに満ちた読み応えのある一冊なのだ。
隅々まで調べ上げられた「させていただく」だが、この言葉ひとつをとっても、生き物のように成長して変化してきたのが感じられる。言葉はダイナミックに動いているし、変化は乱れではなく、時代によって変化していく社会やコミュニケーションを言葉に反映させている。
「させていただく」は、今も変化を続ける。まだまだ成長している。
「させていただきますね」
「させていただきたいのですが、いかがでしょうか」
「させていただく」だけでは足らず、さらに付け足して丁寧で円滑なコミュニケーションを好んで求めている。
「させていただきますね」
「させていただきたいのですが、いかがでしょうか」
「させていただく」だけでは足らず、さらに付け足して丁寧で円滑なコミュニケーションを好んで求めている。
この先、「させていただく」はどうなるのだろうか。30年後くらいには、「そんな言い方してたね」と死語として懐かしむのだろうか。それとも、まだまだ元気に成長を続ける「させていただく」を当然のように受け止めて違和感なんて忘れているのだろうか。
それを確かめるだけでも、少し先の未来は楽しそうであったりもする。
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