本を開いて　時をめぐる　-コンシェルジュ文庫-　三砂慶明

本を開いて　時をめぐる

詩人の長田弘は、『一日の終わりの詩集』に、「人生は間違いである　ある晴れた日の夕まぐれ　不意にその思いに襲われて　薄闇のなかに立ちつくすまでの途方もない時間が一人の人生である」
と書きました。
本棚の奥に差し込まれた一冊の本を開いた途端に、物語がはじまることもあれば、そのまま眠りに落ちてしまうこともあります。ありふれた一日の途方もない時間の奥行から、はるか彼方の未来の物語まで、人類史上最大にして最高の謎、時間をめぐる物語をお届けします。

#06

三砂慶明（みさご・よしあき）
梅田蔦屋書店　ワークスタイル・人文

こよなく本を愛しています。新しい本との出会いの場をつくる企画「読書の学校」を梅田蔦屋書店にて、隔月で開催しています。ＮＨＫ文化センター京都教室にて、「人生に効く！極上のブックガイド」を担当。実際に読んでみたら途方もなく面白かった本を『サンガジャパン』（サンガ）や、『WEB本がすき。』（光文社）などで紹介しています。

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息吹

テッド・チャン/著　早川書房

名作『あなたの人生の物語』を映画化した『メッセージ』で世界的にブレイクした天才、テッド・チャンの17年ぶりの最新作品集です。古典『千夜一夜物語』の枠組みを使い、物理学とも矛盾しないタイム・トラベルのアイデアを用いた「商人と錬金術師の門」は、読者に問います。未来や過去を知ったとしても、変えることができないのだとしたら、はたしてあなたはどう生きるのか？　想像とまったく違う展開に度肝を抜かれました。読後感も最高です。
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時間は存在しない

カルロ・ロヴェッリ/著　ＮＨＫ出版

「時間の流れは、山では速く、低地では遅い。」山の上で暮す人と低地で暮す人とでは、低地の人の方が人生の時間が短く、年の取り方も少なくなるのだといいます。世界標準時で暮す私たちは時間を均一だと考えがちですが、冒頭から世界観をくつがえされます。理論物理学者の本なのに、圧倒的に読みやすく、数式もたった一つしか使われていません。未来と過去の驚くべき秘密はもちろん、本当に時間は存在しないのか？　その目で確かめてみてください。
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読む時間

アンドレ・ケルテス/著　創元社

陽光の下で風にページをめくられている表紙の写真を眺めていると、眠気にまけて本をおき、うたたねでもしているような温かさを感じます。本を開くと20世紀の偉大な写真家アンドレ・ケルテスが写した、「読む」ことに心を奪われた人々の姿が活写されています。この写真集をめくるたび、世界のどこにいても、いついかなるときでも、本に心を奪われて読む姿が、美しいことに心をうたれ時間を忘れます。
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わたしを生きる

村田和樹/著　田畑書店

里山に禅寺を建て、道元の教えを実践してきた著者が、『正法眼蔵・現成公案』を現代語訳したのが本書です。「たき木、はひとなる、さらにかへりてたき木となるべきにあらず。」道元の言葉を平易に語りかけながら、私たちが生きぐるしいのは、現実をあるがままに受け止められないからだと教えてくれます。薪は薪で、灰は灰。私たちは樹木が薪となり、灰になると考えますが、それが思い込みなのだとしたら？　読み終えると、ほっとして深呼吸ができます。
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失われた時を求めて

マルセル・プルースト/著　光文社

眠気を誘うことで悪名高いプルーストの長大な物語は、長いこと私は早めに眠ることにした――、からはじまります。一見、ありふれた日常の描写のようですが、よく考えてみると私たちの人生の大半とほとんど同じです。日常をここまで壮大に描き上げ、大きな物語へと紡ぎあげる執念に圧倒されます。一日十五分だけ、毎日、この本を読んでください。一年後、あなたの人生はかわっているはずです。
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