「恐怖の大王(*1)がやってきて、アンゴルモアの大王(*2)を目覚めさせるらしいよ」
「大王かぶってんじゃねーか、どっちが本当の大王なんだよ」
「いや、そんなことよりさ、ほんとに1999年の7月に地球は滅びる(*3)のかな」
「わかんないけど、、、その頃俺らって何歳になってんだろう、、、」
「あと、これもムー(*4)に書いてあったんだけど、、、、、」
僕らがまだ子どもだった頃、誰もが1999年について考えをめぐらしていた
子どもたちは偉い人が本に書いたことだし、ノストラダムス(*5)は他にも様々な予言を的中させている(*6)らしい、ということから純粋にそのことに恐れを抱いていた。
が、しかし、その頃の子どものひとりであった私もだが、その話を聞いた瞬間はビビるのだが、まだだいぶ先のことだなといつの間にかその恐怖も忘れてしまうのだった。
私が少年時代を過ごしていた80年代はオカルトブーム(*7)の熱がまだ冷めやらぬころで、テレビではUFO特集で矢追純一が驚くべき事実を発表したり(*8)、川口浩探検隊(*9)が誰も入ったことのない洞窟に入っていったり(*10)、夏休みになると「あなたの知らない世界」(*11)を見て心霊写真(*12)などに震えていた。
UFOに心霊写真に探検隊と、追いかけるのに忙しかった子どもたちだが、オカルトブームはそんなものでは止まらず、超能力ブーム(*13)も同時にやってきた。
テレビの前の子どもたちは、超能力者たちがカメラの向こうから送る念(*14)をキャッチするため家にあったスプーンを握りしめていた。興奮して力ずくでスプーンを曲げてお母さんに怒られる(*15)といった光景もよくあったという。
(*1)ノストラダムスの大予言の中に出てくる大王の一人、全く得体がしれないのだが、恐怖のと書いてあるということは怖いんだろうと皆思っていた。
(*2)こちらもノストラダムスが言っていた大王、アンゴルモアとは土地の名前なのか、その大王の名前なのか、そもそもアンゴルモアってなんなのかわからないが、語感がいいので、みんな言いたがった。
(*3)ベストセラーになった五島勉の『ノストラダムスの大予言』の中で、1999年7の月に人類が滅亡すると書かれており、子どもたちは恐怖で勉強など手につかない状態だった。
(*4)学研プラスが発行している老舗オカルト雑誌。人生で大切なことはほぼムーから学んだといっても過言ではない。一時期コピーで「日本で唯一真実が書いてある雑誌」と謳っていたので間違いない。
(*5)フランスの医師で占星術師だったらしい。占星術師として執筆した予言集が当時から大人気だったらしい。難解な詩なので、どうにでも解釈できることから、こじつけていけば何にでも当てはまるとかはまらないとか。
(*6)こじつければ何にでも当てはまるとかはまらないとか。
(*7)70年代から始まった、心霊、UFO、宇宙人、UMA、超能力、超常現象、などのブーム。ネットもない時代だったので、テレビでやっていることは全部本当だと信じていた。
(*8)テレビのUFO特集も矢追純一が関わっているかどうかで子どもたちの信頼度は変わっていたように思う。NASAや米軍がひた隠しにしていた機密情報を簡単にテレビでCMの後などに発表してしまっていたので、大丈夫なのだろうかと心配だった。
(*9)子どもたちにとっては川口浩といえば探検隊の隊長としか認識していなかったが本職は俳優。水曜スペシャルで放送されていた川口浩探検隊は南米のジャングルに行って未知の何かを発見したりしなかったりしていた。
(*10)誰も入ったことのない洞窟に川口浩隊長が入っていくのだが、それを正面からカメラが捉えていたりして嘉門達夫に替え歌でいじられたりもした。
(*11)「お昼のワイドショー」で夏休みに放送されていたコーナー。視聴者からの心霊体験の再現VTRや、心霊写真を紹介するコーナーなどあって、子どもたちに大人気だった。夏休みは学校のプールから帰った後必ず見ていた記憶がある。
(*12)何気ない集合写真や記念写真なのだが、顔に見える何かが写り込んでいたり、腰から下の足が映っていなかったり、と現在の加工技術を使えばいくらでも作れそうなものだったが当時は怖かった。地縛霊という言葉を覚えたのも心霊写真からだったように思う。
(*13)ユリ・ゲラーを筆頭とする超能力者集団がやってきて、スプーンを曲げまくっていた。日本人では、清田少年などが超能力者として活躍していた。
(*14)超能力者たちは、テレビを見ている視聴者の持っているスプーンを曲げると言ってみたり、動かなくなった腕時計を動かしたりと、遠隔でもかなりの能力を発揮していた。
(*15)興奮してアドレナリンが出ていたのか、柔らかいスプーンだったのか、力ずくで曲げて、これは自分の超能力で曲げたんだと言い張って学校に持ってくるやつもあらわれた。
次頁へつづく