【広島 蔦屋書店】3冊の本

フェア・展示
1号館1F 広島 蔦屋書店 2018年02月16日(金) - 04月02日(月)

1冊よりも2冊3冊読むことでその世界はより厚みを持ち多義的になる

ものごとを見る目は常に複数持っていよう

(広島 蔦屋書店 文芸・文庫コンシェルジュ 江藤)

 

きっと皆さんにも経験があると思います。ある1冊の本を読んで、感動し、あるいは驚き、そのジャンル、その出来事、そのテーマ、についてもっともっと知りたくなったことが。

ある1つのテーマについても、書く人によってその表し方はそれぞれ異なりますし、そのテーマをこんな角度から書く人もいれば、違う角度で切り取る人もいます。好意的に書く人もいれば、否定的に書く人もいます。

私たちは、自分の頭で考えるだけではなく、本を読むことで他の人の考えも知ることができます。物事を見る目を複数持っておくということは、あなたがこの世の中を生きていくうえでの1つの武器になることでしょう。

 

今回、20のテーマをあげて、そのテーマをより深く味わうための3冊を選んでみました。

興味のあるテーマがありましたら、ぜひ3冊読んでみることで、そのテーマに深く入り込んでみてください。そして、その先では、さらにそのテーマを掘り下げる本を探していくのもよし、また違ったテーマを複数の目で見てみるのもいいと思います。

そして、あなたの選ぶ3冊もぜひ教えてもらいたいと思っています。

【自由を勝ち取るための闘争と逃走】

人が人を使う、奴隷という制度。自由を奪うその悪しき習慣からの脱却のために人は戦い、または逃げた。自由を勝ち取るための戦いは終わることなく続く。

『地下鉄道』コルソンホワイトヘッド / 早川書房

19世紀アメリカの黒人奴隷を奴隷制が廃止されていた北部の州へ逃がすための秘密結社の名前が「地下鉄道」というのですが、それをタイトルにした長編小説です。逃走を書いたエンターテイメント小説でありながら、史実に基づきアメリカの黒人の歴史、奴隷制度の真実を冷徹に書く、文化的な小説でもあります。

『アメリカ黒人の歴史 自由と平和への長い道のり』パップ・ンディアイ / 創元社

アメリカ黒人の歴史を振り返り、アメリカ合衆国の裏の歴史を紐解く。奴隷としてアメリカにつれてこられた黒人達が奴隷解放宣言を得るまでの時代と、その直後に訪れる抑圧と隷従の時代。いかにしてアメリカ黒人が自らの権利を勝ち取っていったか。さらに今なお残る貧困や差別の現状とは。

『ある奴隷少女に起こった出来事』ジェイコブズ・ハリエット・アン / 新潮文庫

好色な医師フリントの奴隷となった美少女リンダが自由を掴むために行動する。格差という闇を扱った物語。この作品のワンシーンをオマージュしたシーンが『地下鉄道』の中に登場します。

 

【どう生きるのか生き方を考える】

人は生まれた以上、生きることを強いられる。では、どう生きるのか。よりよい生き方とはなにか。幸せも不幸せも個人的なものかもしれない。で、あれば、考え方ひとつで人は変われる。

『漫画 君たちはどう生きるか』吉野源三郎 羽賀翔一 / マガジンハウス

吉野源三郎が1937年に出版した本が、現在大ヒット中です。なぜ、そんなに古い本が今の日本でも再ヒットしたのか。それは、この本に書いてある、勇気、いじめ、貧困、格差、教養、などが今も昔も変わらない普遍的な人生のテーマだからでしょう。子供向けに書かれた本なので、お子様にぜひ読んでいただきたいですし、大人が改めて手にとっても人生を見つめ直すきっかけとなる本です。

『幸福論』アラン / 中央公論新社

誰でも幸福になりたいという気持ちは共通だと思います。この1冊があなたの幸福な生き方のヒントとなる本かもしれません。この本に収められた含蓄の深い考察、そしてその軽妙な語り口は現代においてもけっして古びていません。80年前に書かれた本だと思えないほどあなたのこころに刺さることでしょう。

『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』西原理恵子 / KADOKAWA

女の子のための新しいバイブルとなる本。これからの女性の生き方のある1つの道筋を示してくれるだろうこの本が強く訴えるのは、女性が社会的に自立することの大切さ。著者の西原さんは、この本を、反抗期を迎え、これから人生の荒波に立ち向かおうとしている愛娘へのアドバイスとして書かれたのだといいます。サイバラかあさんの全人生を賭けたメッセージです。

 

【言語、文字、テキスト、その圧倒的な力、圧倒的な統制力】

言語を持ったことにより、人は共有できる思想を持った。テキストに書きつける事により、人は時間の経過と歴史を持った。言語は、テキストは、それ自体が世界であり、人を支配する。

『僕の妹は漢字が読める』かじいたかし / ホビージャパン

現代よりもすこし未来、日本では漢字が読める人はごくわずかな人のみとなってしまっていた。そんな未来の日本文学を代表する作家オオダイラ・ガイの最新作は『きらりん!おぱんちゅおそらいろ』だ。この小説に感動した主人公は、二人の可愛い妹と連れ立ってオオダイラのもとを訪れるが、そこで謎の現象に巻き込まれてしまう。メインカルチャーの交代と言語の表記の変化、それに伴う文学の変容。とか考えながら読んでみたい萌え小説。

『言壺』神林長平 / 早川書房

日本の言語SFの頂点とも言える作品群。ワーカムという言語支援機器を使い小説を書く小説家。ワーカムは小説家の使おうとする文章が、言語空間を揺るがすものとしてその使用を拒否する。文章で世界は崩壊するのか。太古の小説を夢見る家族。言葉を育てる世界。など9篇の短編集。我々は言語を使うのか言語に使われるのか。

『1984』ジョージ・オーウェル / 早川書房

〈ビッグ・ブラザー〉が率いる党が支配する全体主義的近未来。そこで働くウィンストン・スミスは歴史の改竄を仕事としている。全体主義が支配するこの世界では、思考の単純化と思想犯罪の予防を目的としたニュースピークという新言語が作られている。さまざまな表現を必要最低限の語句で代用し簡略化することで思想統制をはかろうとするのだ。さらにニュースピークで過去の文学作品も書き換えられ、全ての作品は政府によって都合よく書き換えられていく。

 

【人間の想像力の限界を少し超えてみる】

SF小説は人間が作りうる最高の文学であると考えてみる。想像力をはるかな地平まで広げ世界をバラバラに壊し、そして再構築する。徹底的な思考実験によって紡ぎ出されるその世界は預言書にも似ている。

『マインド・イーター』水見稜 / 東京創元社

ビッグバンの起こる前の宇宙からやってきたもの、人間への悪意を持っていて人間の精神を食いちぎるもの、数千の小天体の姿をした鉱物的な存在、それがマインド・イーターである。マインド・イーターを破壊するため宇宙に送られた人間が精神を喰われるとその人間と精神的結びつきのあるものもまた精神を喰いちぎられ異質な物体に変わっていく。こんなにも美しく残酷なSF小説があっただろうか。

『ブラインドサイト』ピーターワッツ / 東京創元社

ハードSFを読むことは、難解な哲学書を読むことに似ている。読み込んでも読み込んでも、なお全貌をあらわにはしてくれない。わからない、けど読む。読み続けるうちにわかるかもと思いきや、結局わからなかったりもする。それでいいんだ。わからないけど面白かったら、それでいいんです。

65536個の流星が地球を包囲する、それを調査するために出発した宇宙船には吸血鬼や、四重人格の言語学者などが乗る、そして彼らは人類の最終局面を目撃するのだ。

『道化師の蝶』円城塔 / 講談社

円城塔は小説を書く前に図でその構造を書き記すらしい。その設計図に則って小説世界を組み上げていくそうです。この物語は素直に読み進めるだけではわけがわからないかもしれない。Ⅰの物語はⅡの物語を産み、Ⅲの物語はⅠの物語を飲み込む。そしてそれを書いている著者がいて、そこに読んでいる我々が居る。一見支離滅裂に感じられる各々の物語はロジックに基づいて書かれている。

 

【小説を書くということ、事実を記するということ】

事実を小説にするということは、一体どういうことなのだろう。ありのままを書くのが正しいのだとするとそこには作者の想像力を働かせる余地はない。しかし、徹底的に調べ尽くした結果これしかないという想像を書きつけることはもはや事実を記するのと同義ではないのか。

『HHhH(プラハ、1942)』ローラン・ビネ / 東京創元社

ナチによるユダヤ人大量虐殺の首謀者であるラインハルト・ハイドリヒ。チェコ政府が送り込んだ二人のパラシュート部隊員によってプラハで暗殺計画が決行された。二人の青年たちの運命は。ナチとは一体なんだったのか。この小説に出てくる登場人物、事件の全ては実在である。史実を小説にすることに、著者はためらい、悩みながら、全力で挑む。小説を書くということの本質にも迫る、偉大なる書物。

『帰ってきたヒトラー』ティムール・ヴェルメシュ / 河出書房新社

ヒトラーが現代に蘇る。本物なのだが、周囲はそっくりの芸人だと思い込み、テレビで人気者になってしまう。ギャグ小説なのだが、実はとても恐ろしくもある。ナチスドイツ当時の考えのままお笑い芸人として演説をする。その様子が面白く、民衆は大歓声を送る。どんどん人気者になるヒトラーに民衆は熱狂していくのだ。なぜ当時ヒトラーに熱狂したのか、ドイツがなぜ地獄に突き進んでいったのか、注意して読んで欲しい。

『出版禁止』長江俊和 / 新潮社

著者である長江俊和が手にしたのは、書かれたものの、その内容の凄惨さから実際の記事として載ることがなかったいわくつきの原稿だった。内容は、有名なドキュメンタリー作家と心中し、生き残った新藤七緒への独占インタビューだった。映像作家であり、フェイクドキュメンタリーの名手である著者が仕掛ける奇妙な小説。あなたはここに書かれた事の真の意味を全て見抜くことができるのか。

 

【目の前の景色が色を変える極上の衝撃にその身を委ねる】

物語を読んでいてその結末に頭が真っ白になるぐらいの衝撃を受けたことはあるだろうか。見事に騙される気持ちよさを味わうためには素直な気持ちで読書に望んで欲しい。が、ここに挙げた3冊は構えて読んでもなおあなたを打ちのめしてくれることだろう。

『ラットマン』道尾秀介 / 光文社

アマチュアロックバンドが練習中のスタジオで遭遇した不可解な事件。次々に浮かび上がるメンバーの隠された過去、そして現在、未来。事件の真相が判明する時、衝撃的な記憶が呼び覚まされる。今や直木賞作家として、数々の傑作をものにしている道尾秀介の初期の傑作ミステリー小説。

『アヒルと鴨のコインロッカー』伊坂幸太郎 / 東京創元社

ボブ・ディランはまだ歌っているのだろうか。引っ越してきたアパートで初対面の男に「一緒に本屋を襲わないか」と誘われる主人公。その標的は一冊の広辞苑。奇妙な謎が謎を呼ぶ。断片的な物語が全て合わさって描き出す本当の物語とは。読書中に突然、いままで見ていた景色が全く違って見えてくるという、心地よい衝撃をあなたに。

『殺戮にいたる病』我孫子武丸 / 講談社

とんでもない猟奇的サイコキラーが現れる。しかもミステリーにあるまじきことであるが、犯人の名前まで明かされている。その犯人の名前は、蒲生稔。陵辱と残虐行為の限りを尽くし殺しを完遂する。蒲生稔の行為を読書することでなぞっていくこちらまでもが、その残虐さに取り込まれ精神が不安定になっていくかも知れない。最後の最後まで気を緩めずにどうか正気を保って読み終えられますように。

 

【ドラッグと文学、カルチャーとドラッグ】

ドラッグが見せる幻想と文学が見せる幻想。未知の世界を覗くために文学があるのだとしたら、作家がドラッグについて書くのはごく自然なことなのだろう。社会的、道徳的な問題はおいといて、ドラッグ文学というのは非常に面白い。

『アマニタパンセリナ』中島らも / 集英社

アマニタパンセリナとは、和名をテングダケという有名な毒キノコです。中島らもの、睡眠薬、シャブ、幻覚サボテン、大麻、アルコール、などの危ないドラッグにまつわる話のオンパレード。なぜ古来より人間は危険を犯してまでこれらドラッグを摂取し続けているのだろうか。古今の作家の生活や著書をひもときながらドラッグを語れば、煙の向こうに人間の本質が見えてくる。

『麻薬書簡』ウィリアム・バロウズ アレン・ギンズバーグ / 河出書房新社

ヤーヘと呼ばれる究極のドラッグをもとめて南米へ旅立ったバロウズと、やはり南米を旅したギンズバーグの書簡集。麻薬中毒の時期に発表した小説『ジャンキー』やドラッグで酩酊している時の悪夢的なイメージをコラージュしたと言われる小説『裸のランチ』などで有名なバロウズと、衝撃的な長編詩『吠える』によってビートニク文学の中心的な存在となったギンズバーグの二人の掛け合いが、本当に面白い!

『その後の不自由』上岡陽江  大嶋栄子 / 医学書院

薬物依存の当事者が身を削って書き記した当事者研究の最前線。暴力などトラウマティックな事件があったその後も専門家がやってきて去っていったその後も当事者たちの生は続く。しかし、彼らはなぜ「日常」そのものにつまずいてしまうのか。なぜ援助者を振り回してしまうのか。そんな「不思議な人たち」の生態を書き、普通の生活の有り難さを知る。

 

【妖怪、そのあやしきもの】

古来から人は説明のつかない現象、なんだかわからないもの、に対する恐怖を感じていた。わからないままではこわいので、名前を付け、形を与えた。私たちは妖怪という存在を知っている。時代の変化に合わせて彼らは形を変え、その存在領域を変え居続ける。その姿を捉える導入としての3冊。

『姑獲鳥の夏』京極夏彦 / 講談社

京極夏彦の妖怪シリーズで最初に読む一冊としては、やはり原点であるデビュー作のこちらでしょう。古本屋で、陰陽師である京極堂。社会性がやや欠けた文士、関口。探偵、榎木津。そして怪しき事件とそこに湧き出る妖怪。京極堂が語る蘊蓄話が脳に心地よく、いつの間にか読んでいるこちらもその術中にはまり妖怪に取り憑かれてしまうかのよう。それだけに憑物落としが終わった後の爽快感はたまりません。

『水木しげる妖怪大百科』水木しげる / 小学館クリエイティブ

小学生だった頃、学校に持っていっては妖怪好きの友達と盛り上がっていた本、今も大事に持っています。小学館入門百科シリーズで出された名著ですが、今や古本屋を探してもなかなか見つかりません。しかし、新装版として復刊されているんですよ!当時みんな夢中で読んでいた本がこれです。妖怪博士になるにはこの本を覚えるぐらい読み込まないといけませんからね。

『憑霊信仰論 妖怪研究への試み』小松和彦 / 講談社学術文庫

妖怪を学術的にとらえてみませんか。その原点と発生について研究していくための入り口として、日本人の闇の歴史を知ることから始めるべきでしょう。「憑く」ということ、この憑依という現象を手がかりに、狐憑き、犬神憑き、山姥、式神など人間の持つ邪悪な精神領域へ踏み込み、憑依という宗教現象の概念と行為の体系を介して研究を進めていく。

 

【知の巨人の頭の中を覗いてみれば】

情報化社会、ネット社会、ググればなんでも検索できる時代。では、我々はそれらの情報によって遥かに優れた人間になったのか。いや、むしろ我々は広大な情報の海で遭難しかかっている。何かを知っていることが重要なのではない。その情報をどう繋げるか、編集できるか、それを元に産み出せるかなのだ。

『ちょっと本気な千夜千冊虎の巻―読書術免許皆伝』松岡正剛 / 求龍堂

前代未聞の読書案内本である『松岡正剛千夜千冊』をご存知だろうか。本の紹介と共に、自身のエピソードやリアルタイムな出来事も織り交ぜwebで執筆され、1144夜で一度完結をした連載に大幅な加筆と編集を加え全8冊の大型本として約10万円という高額で出版され、初版1000部を完売した恐ろしい本です。まずは、解説本から入ってみてはいかがでしょうか。

『超人高山宏のつくりかた』高山宏 / NTT出版ライブラリー

学魔(がくま)という異名を持つ高山宏。「マニエリスム」という、ルネサンス期とバロックとの間に起きた美術潮流をメインテーマの著作研究にあげているが、とにかく知識が半端でなく、文学のみならず、美術、建築、文化史、思想史、哲学、デザイン、大衆文学、映画、江戸、コミック、その他諸々の学問領域を横断した各種論文やエッセイを執筆しています。

『いま世界の哲学者が考えていること』岡本裕一朗 / ダイヤモンド社

哲学と聞いて、「人生論」や「生き方」を思い浮かべているようでは、世界の動きに取り残されてしまいます。人類が置かれている環境がこの数十年で大きく様変わりしていて、哲学者達が考えるべき深刻な課題もたくさん出てきている。IT革命とBT(バイオテクノロジー)革命、世界が再び宗教へと回帰していくのはなぜなのか、資本主義は21世紀でも通用するのか、人工知能、格差社会、現代の解けない課題を考え尽くす。

 

【奇跡の共作、あるいは死しても物語は生き続ける】

そもそも小説を作る作業とは、1人でできるからいいのであって、全く社会性の無い、言うならば社会不適合人間にもできる仕事が作家であったりする。当然こだわりも強く、他人の言うことをあまり聞かない人が多い。故に、有名な作家による共作などというものはそもそも数が多くない。しかし、ごくまれに、思わぬ傑作が世に放たれることがある。

『キャプテンサンダーボルト』阿部和重 伊坂幸太郎 / 文藝春秋

共に個性的で唯一無二の存在の二人の作家が一緒に小説を書くとなると一体どんなものになるのか。両作家のファンだった私はドキドキして作品を待っていました。めちゃくちゃ期待をして読んだのですが、遥かに予想を上回る完成度と面白さ。阿部和重の得意とする群像劇と伊坂幸太郎の得意とするスタイリッシュな会話劇が融合した、まさに奇跡の共作が生まれたのです。

『屍者の帝国』伊藤計劃 円城塔 / 河出書房新社

円城塔の芥川賞受賞。その会見で飛び出した驚くべき話。『虐殺器官』という、ゼロ年代を代表するSFでデビューしてからわずか2年でこの世を去った天才作家、伊藤計劃。受賞会見で円城塔は彼がプロットと序章だけを書き上げそのまま遺作となっていた「屍者の帝国」という作品を完成させると発表したのです。出来上がってきた作品は、伊藤計劃がこの世に甦ったのではないかとさえ思える、ファンの期待を一ミリも裏切らない大傑作だったのです。

『サトリ』ドン・ウィンズロウ / 早川書房

覆面作家トレヴァニアンが書いた、冒険小説の金字塔と言える傑作に『シブミ』という作品があります。主人公ニコライ・ヘルは日本的精神の至高の境地ともいえる渋みを会得した暗殺者。そのトレヴァニアンが亡くなってから数年後、現代の冒険小説の最高の書き手ドン・ウィンズロウが、その世界観を敬意を持って継承し、時系列やセリフなども完全に整合性を取りながら、ニコライ・ヘルの若き日を書く興奮の冒険活劇。

 

【追えば追うほど遠ざかる、写楽ゲームの楽しみ】

誰もが一度は目にしたことのある浮世絵の代表的作家として、東洲斎写楽が挙げられる。しかし、写楽は活躍時期も限られているし、突如として現れ、煙のように消えている。しかも、僅かな活躍時期の間に作風の変化すらある。そして最高に楽しいのは、写楽って誰なんだという疑問に、確定的な答えが出ていないことだ。

『写楽 閉じた国の幻』島田荘司 / 新潮社

本格ミステリー界のキングオブゴット、島田荘司がついに写楽ゲームに参戦。さあ、いったいどんな奇想でこのゲームに挑むのでしょうか。読み終わってすぐに思ったのは、ああ、これで写楽ゲームは決着してしまったのではないか、もうこれ以上の解決はないのではないか、ということ。今までだれも思いつきも考えもしなかった、驚きの正体をノンフィクション小説を読んでいるかのような絶妙なストーリーテリングで明かしていきます。

『写楽殺人事件』高橋克彦 / 講談社

写楽絡みのミステリー小説といえば、この作品。なんでも知っている人っていう印象が強い高橋克彦ですが、特に浮世絵にめちゃくちゃ詳しい人なんです。殺人事件はあるのですが、どちらかというと写楽探しがメインになっていて、それはそれで大変に面白い。この小説を読んでいれば写楽については一通り語れるようになるぐらいの情報量です。

『東洲斎写楽はもういない』明石散人 / 講談社

写楽ゲームを語る上で、この本は欠かすことのできない重要な本です。著者である明石散人という人物も、テレビ番組の制作に関わったり、本を書いたりしているので、実在することは確かなのですが、正体がわからない謎の人物なのです。そんな写楽のような著者が写楽について論じます。写楽についての知識が欲しければこの本を読めば完璧です。その作品をまず資料とし、さらに内外の研究論文の原典にもあたり、徹底的に冷静に考証し、動かしがたい結論を導きます。

 

【今という時を生きるために 装備しておきたい考え方(哲学)】

今この時代を生きづらいと感じていませんか。しかし、私たちは今生きている。ならば私達が生きている今がいったいどんな時代なのか。それを知ることから初めてみませんか。現状を知らずして今をより良く生きることはできません。新しい生き方を模索する時代が今来ているのです。

『21世紀の楕円幻想論 その日暮らしの哲学』平川克美 / ミシマ社

かつて『小商いのすすめ』という著作で、ショッピングモールが乱立する社会を否定し、商店街の復活を唱え、小さな範囲でおこなえる「小商い」を提唱した著者。その後『「消費」をやめる』という著作を経てたどり着いた集大成と言える本作。全財産を失い、右肺の3分の1も失い、文無しその日暮らしとなった著者。しかし、そんな生活がなかなか時代に適合した生き方のようにも思えてくる。

『うしろめたさの人類学』松村圭一郎 / ミシマ社

世界で最も貧しい国の1つと言われるエチオピアでのフィールドワークを通じて、日本を見つめ直す。この世の中はどこかおかしく、窮屈だと感じる人が多い。しかし、どこを変えればいいのか、どこから手を付けたらいいのか、すぐにはわからない。では、この世界がどうやって成り立っているのかを市場、国家、などのキーワードを丁寧に解き明かし考えましょう。私達が知っている感情の1つ「うしろめたさ」実はこれが世界の繋がりを取り戻す手がかりにもなるのです。

『中動態の世界 意志と責任の考古学』國分功一郎 / 医学書院

英文法で教えられるのが「能動態(~する)」と「受動態(~される)」の区別だが、本書のタイトル『中動態』はそれら二つの起源にある、古典ギリシア語などかつてのインド=ヨーロッパ語に広く存在した動詞の態を指す。過去や現実の制約から完全に解き放たれた絶対的自由など存在しない。逃れようのない状況に自分らしく対処していくこと、それが中動態に生きることであり、自由に近づくことなのです。

 

こちらは「3冊の本」無料冊子から一部抜粋した文章です。「3冊の本」無料冊子は、広島蔦屋書店の「3冊の本」フェア台で配布中です。

 
 
 

 

 

 

 

 

 

  • 期間 2月16日(金) - 4月2日(月)
  • 場所 1号館1F 広島 蔦屋書店

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