【広島 蔦屋書店】冤罪はつくられる
フェア・展示
1号館1F マガジンストリート 2022年12月10日(土) - 01月20日(金)
広島 蔦屋書店
文学コンシエルジュ 江藤宏樹
とあるドラマを見て唖然としてしまった。
このテーマでここまでやれるんだ。
そして、自分は何もしていなかったじゃないか。
このテーマでここまでやれるんだ。
そして、自分は何もしていなかったじゃないか。
私が冤罪について興味を持ったのは大学生の頃だった。その時は、勉強のひとつとして読んだ本で知ったので、そこまで思い入れを持って調べたりしたわけではなく、しかし、小さな棘のように心に何かが刺さっているのを感じていた。
次に出会ったのは、書店員になってからだった。
とある本が出版されるのだが、ぜひ読んで欲しいと出版社の方に勧められて読んだのが『殺人犯はそこにいる』清水潔(新潮社)だった。心に棘のように刺さっていた冤罪事件だが、この本を読むことで私は大きな衝撃を受けた。ただの知識として知るのと、ノンフィクション作品として全身で味わいながら読むのでは大違いだった。激しく憤り、怒りと不安でどうしていいかわからなくなった。
とある本が出版されるのだが、ぜひ読んで欲しいと出版社の方に勧められて読んだのが『殺人犯はそこにいる』清水潔(新潮社)だった。心に棘のように刺さっていた冤罪事件だが、この本を読むことで私は大きな衝撃を受けた。ただの知識として知るのと、ノンフィクション作品として全身で味わいながら読むのでは大違いだった。激しく憤り、怒りと不安でどうしていいかわからなくなった。
とにかくこの本を売らなくては、と思い。知り合いの書店員にも勧めて自分が当時いた店では平積みにして自分なりに一生懸命売ったつもりだった。こんな本が出てしまったのだから、きっと警察も再び動き出し、事件は大きく動くのでは、真犯人も逮捕されるのでは、と期待した。
しかし、何も動かなかった。
当時思ったのは、ああ、これでも何も動かないのか。という無力感だった。
その後『殺人犯はそこにいる』は文庫Xとして大きなベストセラーになるのだが、単行本発売時に味わった無力感から、以前ほどその動きにのめり込むことはできなかった。
そのまま時は流れ、ある日テレビを見ていると「エルピス ―希望、あるいは災いー」というドラマが始まった。見始めた私は言葉を失った。こんなことがテレビでできるんだ。
このドラマでは、注意書きのようなテロップが出る
「このドラマは実在の複数の事件から着想を得たフィクションです」
このドラマがいかに挑戦的であるかを表していた。
「このドラマは実在の複数の事件から着想を得たフィクションです」
このドラマがいかに挑戦的であるかを表していた。
ここからは、私の個人的な感想なのだが、明らかに実在する冤罪事件を元にしたエピソードが散りばめられている。
それは、栃木県足利市で起きた連続幼女誘拐殺人事件、いわゆる足利事件(冤罪であることがわかり再審の結果無罪が確定した)であったり、名張毒ぶどう酒事件(冤罪を訴え続けたが再審が認められることはなく獄中で89歳で死亡)袴田事件(再審開始の決定がされ釈放されたが、後に再審請求は棄却された)などからの着想であろう。
それは、栃木県足利市で起きた連続幼女誘拐殺人事件、いわゆる足利事件(冤罪であることがわかり再審の結果無罪が確定した)であったり、名張毒ぶどう酒事件(冤罪を訴え続けたが再審が認められることはなく獄中で89歳で死亡)袴田事件(再審開始の決定がされ釈放されたが、後に再審請求は棄却された)などからの着想であろう。
この国に対して、司法制度に対して、大きな憤りを持っていたのは私も同じだったはずなのに、あの時読んだ本から受けた衝撃を忘れかけていた。しかし、このドラマは忘れかけていたあの思いを呼び起こしてくれた。
今こそ私たちは冤罪について知らなければならないし、考えなくてはならない。
冤罪は作られるのだ
これは他人事ではない
私たち誰もが直面する可能性がある
これは他人事ではない
私たち誰もが直面する可能性がある
これは間違いではない
恣意的に作られている可能性がある
恣意的に作られている可能性がある
証拠は捏造され、自白は強要されるかもしれない
だが、もしあやまって認めたとしたらもう終わりだ
有罪率99%で再審の扉はほぼ開かない
だが、もしあやまって認めたとしたらもう終わりだ
有罪率99%で再審の扉はほぼ開かない
こんな現状がこのままでいいはずがない
変えるためには、知らなければならない
知るための本ならここにある
知るための本ならここにある
まずは知ることからはじめよう
私は「エルピス ―希望、あるいは災いー」の脚本を書かれた渡辺あやさんに、どうしても今回のフェアについてコメントを頂きたいと思って、長文のメールにて、無理なお願いをしたところ、非常に暖かい言葉を頂き、下記のようなコメントを頂くことができました。
まさに、本というものの力について、私たちがフェアを作るということについて、勇気をいただける言葉でした。本当にご協力ありがとうございました。
そのコメントをここに紹介致します。
正直に白状すると、私はこの国の法律や警察について深く考えようとしたことがありませんでした。ヘタにそのあたりを疑い出してしまったが最後なにかこっぴどい現実を見てしまい、不安や恐怖で夜もよく寝れなくなってしまったりしたら嫌だなあと思っていたからです。
ところが6年前、ドラマの企画開発にあたってプロデューサーからまさにそのあたりの本をしこたま読まされる羽目になり、案の定それらがいかにこっぴどい現実をはらんだものであるかということを思い知ることになりました。
先頃ドラマの放映が始まり、脚本家インタビューで「こうした現実をなるべく多くの方に知ってほしくて」などと答えたりしていてさも意識が高い人みたいなのですが、その実はこんなおっかない話があまり世の中に知られておらず、したがってさほど考えられてもいないようなのが心細すぎて、「もっとたくさんの私より頭のいい人たちに一緒に考えてほしい(泣)」と心底思うからです。
人間の作る「システム」は完璧ではなく、必ずどこかに欠陥を抱えていて、時に残酷な犠牲を生むことがある。そしてその犠牲に私たち自身も、私たちの大切な人たちも、いつでもなりうる。そういうおそれが、この国には今まだあるのだと思います。
さてしかし、ここで大きく救われるのはこのブックフェアに並ぶように、私たちが「知りたい」「考えたい」と思ったらすぐさま叶うだけの素晴らしい書籍や資料の数々を、すでに多くの作家や弁護士やジャーナリストの方々が残してくださっていることです。
ひとつでも犠牲を減らし、人が平和に安心して暮らしていくための可能性はいつでも、無限に開かれている。私たちは、いくらでも努力していくことができるのだと思います。
渡辺あや
【プロフィール】
渡辺あや(わたなべあや)
1970年生まれ。島根県在住。2003年、映画「ジョゼと虎と魚たち」で脚本家デビュー。NHK連続テレビ小説「カーネーション」。映画「メゾン・ド・ヒミコ」「天然コケッコー」「ノーボーイズ・ノークライ」。テレビドラマ「火の魚」「その街のこども」「ワンダーウォール」「ストレンジャー 上海の芥川龍之介」「今ここにある危機とぼくの好感度について」「エルピス—希望、あるいは災い—」 など。
- 期間 12月10日(土) - 2023年1月20日(金)
- 場所 1号館1F マガジンストリート