【コンシェルジュ座談会 Vol.1】
蔦屋書店のコンシェルジュとは
本を通して生活提案
体験や交流の起点にもなり、書店を豊かにする存在

蔦屋書店では毎年、秋の読書週間・本の日(11月1日)に向けて、コンシェルジュが一つのテーマに沿って選び抜いた文庫本をご紹介するフェア「コンシェルジュ文庫」を全国で実施しています。第5回の開催を記念して、普段は異なるお店で働く4人のコンシェルジュが集まって座談会を開催!3つのテーマについて、日々感じていること、考えていることを語り合いました。Vol.1のテーマは「蔦屋書店のコンシェルジュとは」です。

座談会参加者

岡田基生(おかだ・もとき)

代官山 蔦屋書店 人文・ビジネス リーダー 兼 人文コンシェルジュ。修士(哲学)。IT企業を経て入社し、「リベラルアーツが活きる生活」を提案している。哲学、デザイン、ビジネスと、専門領域が広がったタイミングで、自身のX(https://twitter.com/_motoki_okada)をスタート。Xをきっかけに、宮沢賢治に学ぶワークスタイル論をはじめとする連載やイベント出演など、発信の機会が増えている。

北田博充(きただ・ひろみつ)

梅田 蔦屋書店 店長 兼 文学コンシェルジュ。出版取次会社を経て2016年に入社。2020年、本屋の魅力と可能性を発信するフェス「二子玉川 本屋博」を企画し、2日間で来場者3万3000人、販売数1万冊超を記録するなど大きな反響を得る。2016年には、ひとり出版社「書肆汽水域」も立ち上げており、文学作品を中心に出版している。2024年2月に、自身の著書『本屋のミライとカタチ -新たな読者を創るために-』(PHP研究所)を刊行予定。

河出真美(かわで・まみ)

梅田 蔦屋書店 文学コンシェルジュ。海外文学を主に担当し、『ザリガニの鳴くところ』(ディーリア・オーエンズ、早川書房)、『わたしが先生の「ロリータ」だったころ』(アリソン・ウッド、左右社)、『戦時の愛』(マシュー・シャープ、スイッチパブリッシング)など、数々の作品の書評を書いている。梅田 蔦屋書店のホームページ(https://en.store.tsite.jp/umeda/blog/)で「コンシェルジュ河出の世界文学よこんにちは」を連載中。ブログ運営、ZIN制作など、書店業務以外でも素敵な本を広めるための活動を行っている。

江藤宏樹(えとう・ひろき)

広島 蔦屋書店 文学コンシェルジュ。代官山 蔦屋書店を見て憧れていた蔦屋書店が2017年に広島にできることを知り転職。イベントが好きで、毎月開催している「読書会」をはじめ、自身の趣味を生かしたオートバイの「カブ」や、けん玉などのイベントも実施している。「二子玉川 本屋博」に感動し、その精神を受け継いで、町の本屋が一堂に会する「広島 本屋通り」を2022年に企画。2年連続で開催している。

本の並べ方によって、新しいライフスタイルを提案できる

――コンシェルジュになったきっかけは?

岡田:僕はもともと、研究者になりたいと思っていて、大学でずっと哲学を勉強していたんです。でも、いろいろ研究して学会で発表しても、社会や自分の生活にどこかつながっていかない感覚があって、研究者とは違う形で、哲学とビジネス、生活を結びつけられるような新しいことができないかと徐々に考えるようになりました。

そんなとき、あるブックコーディネーターの方の活動を通して、選書によってストーリーをつくったり、ブランドを表現したりできることを知って、本のある空間や選書に興味を持ったのがきっかけです。例えばプラトンの哲学書の隣にマーケティングの本を並べるだけで、新しい知の可能性、ライフスタイルの可能性をすぐに実験・提案できるのがいいと思いました。学会で発表するとなると、もっと時間がかかりますから。

河出:私は学生時代に書店でアルバイトをしていてすごく楽しかったので、就活でも書店を受けていたのですが、そのときはうまくいかなくて。書店への思いを持ちながらも、いったんは別の業界で働いていました。あるとき、同僚に「三島由紀夫って誰?」と言われて衝撃を受けて、「私は、ここにいてはいけない!」と強く感じたんです。そんなときに、ちょうど、新聞で梅田 蔦屋書店の人材募集を目にして、翌日には代官山 蔦屋書店を見に行き、転職を決意。面接で思い残すことなく自分を出したら受かることができました。

子供の頃から海外文学が好きで、語学も学びながら原語で読んでいたりもしたので、今は、自分が読んでいた本を翻訳された先生と実際にお会いできたり、夢のような毎日を過ごしています。

生活の困りごとを、もっと相談して欲しい

――コンシェルジュとは?

北田:先日、「趣味が全くなくて趣味を探したいんだけれど、趣味の探し方みたいな本はないですか?」と聞かれる男性のお客様がいらっしゃったんですよ。「そういう本はないかもしれないですが、趣味を見つけるお手伝いはできるかもしれません」と言って、各ジャンルのコンシェルジュに、おすすめの本をいくつか提案してもらって、ご購入いただいたということがありました。本を探すというより、お客様の生活の困りごとの相談に乗るという感じですかね。例えば、「妻の誕生日が近くて、料理をつくってあげたいんだけど、どんな料理をつくったらいいかな」という相談に、食コンジェルジュが「こんなレシピはどうですか?」と提案したり、「もうすぐ引っ越すんだけどインテリアをどんな風にしようか考えていてちょっと相談に乗ってくれませんか」という相談に、住コンシェルジュが「こんなのどうですか?」と提案したり。蔦屋書店では本を通して生活提案できるのがコンシェルジュなので、そういう問い合わせが増えてほしいなと思います。そういう仕事を求められると、コンシェルジュはやりがいを感じますし、実際にそういう仕事をしたいですよね。

江藤:僕が働いている広島 蔦屋書店は、ショッピングモールの中にある特殊な立地なので、蔦屋書店目当てではないお客様もたくさんいらっしゃるんですよ。「子供が本を読まないのだけど、どういう本がいいですか?」という質問は、よくお母さんから受けますね。蔦屋書店を目指して来られる方の中には、欲しい本が明確な方もいらっしゃいますし、本を選ぶのが難しいと思っておられる方もいらっしゃいます。なので、僕はフェアを通して本の選び方の提案もしたいと思っていて、翻訳者や編集者で本を選ぶフェアなどをこれまで実施してきました。本の選び方を提案できるのもコンシェルジュならではかなと思っています。

以前、小学校の中高学年を対象に、読書会もしていました。最初に僕が本の選び方を子供たちに話して、親御さんに買ってもらった3,000円の図書カードをみんなに配って、そのなかで買える本を店内から30分くらいで選んできてもらうという会。最後は選んだ本について、選んだ理由も含めてお互いに紹介してもらっていたのですが、これがすごくおもしろかったですね。子供たちにとって初めてに近い買い物体験にもなりますし、みんなドキドキしながら選んだ本を紹介してくれるのも可愛くて。コロナで中断してしまいましたが、またやりたいですね。

「コンシェルジュ新刊セレクション」という名前の、新刊をノンジャンルで置く棚も設けています。自分が欲しいと思えるような、でも他の本屋さんではあまり見ない本ばかりを集めた棚なんですけど、いつもその棚から買ってくださるお客様がいて、自分が開いた読書会にも来てくださったりして、仲良くなるのも楽しいですね。

北田:ファンがつくっていうのはいいですよね。書店ってやっぱり、ただの「本を買いに行く場所」だとダメなんですよ。コンシェルジュに会うためとか、お客様同士で交流できるコミュニティがあるからとか、行く理由のバリエーションが増えるほど、書店は豊かになると思います。今までの書店って、人に会いに行く場所ではなかったはずなんですよ。蔦屋書店は、それができるところ。江藤さんはそれを実践されていますね。

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