へいじつのよみきかせ~親と子の時間~「この春1つ大きくなる子どもたちへの配慮」

kidsコンシェルジュが提案する絵本を軸とした親と子の過ごし方。
今回は「この春1つ大きくなる子どもたちへの配慮」をテーマにお送りします。
 
冬が終わり、温かい日が増えてきて周りの空気がすっかり春らしくなってきましたね。
春は、卒園、入学、進級と目まぐるしく環境が変わる季節。新社会人、異動、引っ越しなど、
大人もバタバタとせわしくなるころです。
子どもたちはというと、1つ学年が大きくなることに期待を膨らませて、ワクワクしていることでしょう。
初めてのランドセル、初めてのお弁当箱、初めての制服……「自分だけの」ものを用意してもらい、嬉しさでいっぱいでしょう。そんなわが子を前に、お家の方も子どもの頃を懐かしく思い出されたのではないでしょうか。学用品に名前を書いてもらったり、手提げバック、シューズ入れなど必要なものを作ってもらったり……色々と準備が大変だからこそ、あの頃の親の気持ちが今わかる気がしますね……。
 
さて、わが子の新たな門出には、たくさんの励ましの声をかけたくなります。
「次は年長さんだね、幼稚園の中で一番大きいお兄さんお姉さんだよ」
「おめでとう!ランドセルかっこいいね」
「お勉強がんばろうね」
そして、ついついこんな声かけもしてしまいますね。

例えば、
「小学生になったら、自分で制服着るんよね」
「もう自分でできるよね」
「年少さんになるんじゃけー、自分で食べるよね」
「一人でできるようにならんと」
「いっぱい食べんと1年生になれんよ」
「これからは、朝は自分で起きるんよね」
などなど…

しかし、1つ学年が上がることへの環境の変化からこんな風に不安を感じてしまう子どももいます。
「4月になったら、今までとはたくさん違うことがあるんだ…」
「教室も先生も変わってしまったらドキドキする…」
「自分一人でできるのかな…」
励ましの言葉をたくさんかけることで、確かに子どもの気持ちは高まり意欲的になります。
しかし、それはちょっぴり不安を抱えている子どもにとっては逆効果になってしまうのです。精神的なもので身体に不調が出たり、表情が暗くなったり気持ちが不安定になったりする子どもをこの時期たくさん見てきました。
以前仕事をしていた保育園で2歳児のクラスから年少クラスに進級するKちゃんにもこんなことがありました。

 
進級を控えた2月ごろから急に、表情がこわばったり、笑顔が見えないことが増えました。すぐにぐずったり腹痛を訴えたりと明らかに普段と違う症状が毎日のように現れていました。
初めは病気を心配していたのですが、家に帰るといつもと変わらないとのこと…
私たちは、Kちゃんが毎日のようにしていた進級に向けての練習や上記のような励ましの言葉に不安になっていることがわかってきました。不安な気持ちでいるとやる気なんて出るはずがありませんよね。Kちゃんの気持ちを考えると、毎日が負担でしかなかったよねと反省しました。
そこで保育士は連携して、Kちゃんも含め、できる子にも少し不安に感じている子にも、ゆっくり時間をかけてできるようになる子どもにも、みんなに普段からこんな声かけをすることにしました。
 
「お部屋が変わるだけで、みんな一緒だから大丈夫よ」
「先生もいるし、給食もあるし、いっぱい遊ぶのも同じなんよ」
「今はできなくても、少しずつできるようになったらいいよ」
など、変わらないこともあるということを繰り返し伝えました。そうすると少しずつ安心してくれて、いい表情でお友達と元気にふざけたりじゃれあったりして普段通りの姿も見られるようになりました。本当にほっとしました。親御さんはこの状況をとても心配されていて、後ろ髪を引かれるように仕事に向かわれていたので、理由がわかると安心してくださり、「家でも安心できる言葉をかけてみます」と連携を図ってくださいました。
 
親は、子どもの成長がとても嬉しいですし、子どもの高まる気持ちに共感するためについつい大袈裟に励ましの言葉をかけてしまいます。私もそうです。(そして張本人のわが子はというと気持ちが冷めてしまいがちですね…反省)
大小の差はありますが、生きていくうえで大人も子どもも環境の変化から逃れることはできません。そこにうまく対応できる人と苦手な人がいます。年々成長し心が大きくなると感じ方も変わってきますが、わが子はどちらのタイプかな?と、じっくりと観察してあげほしいと思います。平気そうに振舞っていても内心ドキドキしていたりする子もいますよね。
だから、環境の変化を迎えるお子さんには、変わっていくことばかりではなく「変わらないものがある」こともきちんと伝えてあげることが大切ですね。そして、子どもは少しの不安でも取り除くことができたら、次の段階にステップアップする準備ができます。そして、もう1つのお願いなのですが、どうか「なんでも一人で」と急に突き放してしまわないでください。今は、いずれ一人でできるようになるための準備の時期です。少しの手(伝い)とたくさんの目(をかけること)で子どもを見守ってあげましょうね。子どもが抱える不安というのは、親や、先生、地域の方の深い愛情と、友達の力がプラスとなり、案外簡単に解消されることも多いのですから。
この春1つ大きくなる子どもたちへ、とびきりの笑顔で新たな1歩を踏み出してほしいと願っています!

 
 
 
【今月のおすすめ絵本】
『ゆっくり にっこり』木島 始 作 / 荒井 良二  絵 / 偕成社

 

【あらすじ】
春になると、色々な生き物たちが居心地のいい場所を求めてお引越しの始まりです。
いつもせかせかとお引越しをしているものなーんだ?
お引越しって楽しそう!みんなの引っ越しを見ていると、だんだんそう思えてきて…
私も4月になったら、小学校に引っ越ししてみようかな!
 
【読み方ポイント】
生活環境が変わる前にぜひ読んであげてください。
なぞなぞ形式で楽しくやり取りをしながら読んでみては?
急に気持ちを変えなくていいんですよ。
新しい持ち物も、気持ちも、ゆっくり準備しましょうね。
 
 

 
 
宮本 陽子(みやもと ようこ)
Kidsコンシェルジュ
保育科卒業。保育士として広島市の保育園に勤務。
21年勤続の後、保育士時代に毎日読み聞かせをして培った絵本の知識を、リアルタイムに子どもたちそして親たちへ伝えられたらと思い、2017年広島 蔦屋書店に入社。入社してからも「へいじつのよみきかせ」で平日は毎日1日2回、ほぼ毎日絵本を読んでいる。
「0歳から就学前の子どもたちの好きな絵本」、「親が子どもにぜひ読んであげてほしい絵本」、「おとなの気持ちを癒す絵本等」等、多様な児童書というジャンルのなかでも特に「絵本」が持つ魅力を提案し続けている。
 
 

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