include file not found:TS_style_custom.html

【太鼓判インタビュー】 江藤宏樹太鼓判「SF小説」

 
文学コンシェルジュの江藤さんに太鼓判を聞いてみた。当然本に関することだろうと予想はしていて、どんな作家名や作品名が出てくるのか楽しみにしていたが、インタビューは豪速球の物語論から始まった。
 
 
物語とは何か?

何で人は物語を書いたり、読んだりするのかな、と考えるんです。例えばこの物語のテーマは、なんですか?みたいなのって、ちょっと違うな、って思うんです。そのテーマを伝えたいんだったら、そのことを直接伝えればいいと思うんです。
 
物語というのは、短い言葉ではどうしても表現できないものを表現できるものだと思っています。どうやっても説明し得ない感情や伝えることが難しい想いや気持ち、名付けようのない「何か」を伝えるためには、物語るしかないのだと思います。
 
当然それは、作者の意図を100%伝えるものにはならないし、作者が意図していなかったものも、書かれたりする。その余白にあるのが文学性だと思います。純文学だけが文学足り得るものではないと思っています。その解釈は読む人に委ねられます。わからないけれども読む、読むけれどわからない、それが物語のいいところではないでしょうか。世界のすべてが数字や記号で理論的に表現できるのであれば、おそらく物語は必要無いのだと思いますが、表現できない多くのことを伝えるためには物語が必要だと思っています。
 
と、なんかいきりかましてしまったんですが(笑)
太鼓判ものを教えてくれって、僕に聞くんだから、やっぱり本のことをしゃべらないと、と思っていろいろと考えました。太鼓判は、SF小説にしようと思うんです。
 
 
 
 
SF小説にはある種の思考実験的なものがありますので、それこそ、こういう設定で地球上とは違う物理法則や文明や生物がいたとしたら、どうなるのか、というのを想像力の限界を超えるギリギリのところで物語化するものでもあるので、まさに私達の知っている科学や理論ではどうやっても説明できないものでも、SF小説なら物語ることができるはずです。理論化できないものを物語るということであれば、それにもっとも適しているのはSF小説なのではないかと思っています。また、SFという枠組みというのは、とても度量が深いといいますか、エンタメ小説から純文学や実験小説までありとあらゆるものを描くことができる。SFという形式を借りて、個人的なことを書く私小説的なSFもあります。
 
 
カート・ヴォネガット『スローターハウス5』

僕はカート・ヴォネガットが好きなのですが、ヴォネガットの『スローターハウス5』は私小説的なSFと言えます。冒頭で、「私」という語り手が、第二次世界大戦中のドレスデン爆撃についての本を書こうとしたが、長年書けなかったことが語られます。ヴォネガット自身も連合軍の捕虜として、ドイツのドレスデンに送られ、連合軍による無差別爆撃にあったんです。ヴォネガットは幸いにして、捕虜収容施設として、地下の屠殺場が使用されており、そこが防空壕の役割をしたので、生き延びるんですね。
 
で、『スローターハウス5』に戻ると、「私」はビリー・ピルグリムという人物を主人公に物語を書き始めるんです。ビリー・ピルグリムもヴォネガットと同じように第二次世界大戦に従軍し、捕虜となり、ドレスデンで空爆になった体験を持つんです。また、ビリー・ピルグリムは時間旅行ができ、過去にも未来にも行くことができるんです。でも意識だけなんです。それも自分でコントロールできるんでなくて、発作的になんですね。これってPTSDによるフラッシュバックに非常に近いなって思います。その恐怖の記憶から、戦争体験を直接的に描くことにためらいがあったであろうヴォネガットはがSFという形式を借りて非常に個人的な話を書いたんじゃないかと思うんです。物語という形式で、それも時間旅行というような荒唐無稽とも言えるフォーマットでしか語りなかった戦争の記憶。それに心が打たれます。また、なんでも繰り返される「そういうものだ」という台詞。伝えるために物語るけれど、それでも伝えきれない余白の中に文学性はあり得ます。
 
 
 
 
 
ヴォネガットは、常にユーモアを忘れないところがとても好きなところです。しかし、そのユーモアに溢れた語り口から一変して恐るべき悲劇を語ることもあるので、その恐ろしさ、悲惨さがより際立ちます。また、そのスケール感の大きさもSF独特のもので、とても好きです。時間軸も100年どころではなく100万年でも500万年でも語ることができるのがSFのすごいところだと思っています。
 
スケール感の大きな話が好きなので『タイタンの妖女』もとても好きな作品です。あまりにも時間軸が大きな作品で自分の悩みなどどれだけちっぽけなものかというのを感じさせてくれて悩むのが馬鹿らしくなってしまいます。
 
 
 
 
私の読書遍歴

昔読んだ本の内容などはいろいろ覚えているのですがいつ読んだとかはぜんぜん覚えてないんですよね。意識してこれが好きだなと思って読んでいたのは、寺村輝夫の「ぼくはおうさま」シリーズですね。おそらく小学校2~3年生ぐらいだから7歳か8歳ぐらいですね。寺村輝夫のナンセンス童話の不思議だったり不条理だったりする話は大好きでした。その中にSFっぽいテーマのものだけを集めた
巻があって。その中に宇宙人の侵略者がやってくるような話があって。あっというようなオチがついて短編としてもよくできているんですけど、あれって完全にSFだったなって思いました。最初からSFが好きだったのかもしれません。
 
その後はミステリに、はまるんです。まずは、江戸川乱歩の『少年探偵団』を読んで、赤川次郎の『三毛猫ホームズ』シリーズを読みました。その後中学生ぐらいで、親が読んでいた高木彬光を読んだりして、島田荘司や綾辻行人などの新本格ミステリを読んでいました。とにかく、ミステリって感じでしたね。
 
たぶん16歳くらいのときに、ミステリ好きの流れで手に取ったのが『星を継ぐもの』なんです。初めて意識してSFだと思って読みました。『星を継ぐもの』は近未来が舞台なんです。導入だけ簡単に説明すると、月面に遺体が発見されるんですが、遺品を年代測定にかけたところ5万年前の人間だった判明するんですよ。5万年前の人類はもちろん月に人を送れるような科学力はない。でも実際にそこに遺体があるわけです。じゃあ、これは何なんだ、という謎ですよね。これを解き明かしていくミステリとして読んだんですが、一方でSFはこんなに大きなテーマを描けるのか、というところにも惹かれました。
 
 
 
 
ミステリとSFって相性がいいと思うんですよ。ミステリと言うのは舞台設定がとても大事で、探偵が活躍するためには、外部と切り離された陸の孤島が必要だったり、また、密室殺人や不可解な殺人事件を成立させるにも舞台設定がとても大事です。基本的には密室殺人と言うのは、犯人にとってあまりメリットのあるものではありませんので、現実ではほぼ起こりえません。それに説得力をもたせるのが舞台設定です。現代ミステリではこの舞台設定に苦労しますよね。いまは、携帯電話などもあり外部との連絡もし易いので。SFなら、どんなに突飛な舞台設定もできますし、時代設定も自由自在です。5000万年後の世界も書けますし、そこから一気に地球の誕生前のことも書くことができます。人間以外の犯人も出したって構いません。その自由度の高さから、今まで読んだことのないミステリを書くことができるのがSFだと思うんです。
 
『星を継ぐもの』を読んでからは、ミステリ要素のないSFも読んでみようと思って、海外の古典と言われる作家から読破していきましたね。アーサー・C・クラーク、カート・ヴォネガット、スタニスワフ・レム、ジェイムズ・P・ホーガン、ジョージ・オーウェル、ロバート・A・ハインラインといったところです。
もちろん、星新一のショートショートや筒井康隆は中学生のときに読んでいたんですが、SFだとは、とくに意識はしていませんでした。
 
 
国内のSF小説のおすすめ作家
 
国内のSFを読み始めたのは遅いんですよ。35歳くらいからですかね。円城塔が芥川賞をとって。それがきっかけですね。それから、伊藤計劃の『虐殺器官』を読んで、今まで読んだSFよりも新しいものが出てきたなというのを感じました。伊藤計劃の小説には様々な近未来的ガジェットが出てくるんです。コンタクトレンズ型モニターとか、ナノロボットを体内に入れるとか、人工筋肉だとかです。それら小道具も世界観に矛盾なくハマっています。それがあるからこそ、テクノロジーと身体、テクノロジーと倫理というような伊藤計劃の作品に内在しているテーマもより説得力を持って伝わります。もちろん、それ以上に読んでて面白いというのがあるんですが。
 
 
 
 
神林長平も好きです。作品は『戦闘妖精・雪風』ですね。コンピューターの頭脳を持つ戦闘機雪風とパイロットの深井零とのやり取りや、文体や、描写がどれもすごくかっこいい!また、人類とは異質の存在である敵<ジャム>のよくわからなさにも魅力を感じました。
 
藤井太洋のSF小説は現在実現可能な技術などを使ったSFを書くこともあるのですが、それら技術を更に飛躍した使い方をして非常に未来的な景色を見せてくれます。そして藤井太洋のSF小説の底に流れるのが、未来への信頼と希望である、というところがまた特に好きです。
 
SFにも色々ありますので、宇宙人などが出てくるスペースオペラものが苦手でも警察小説と近未来SFが一緒になった、月村了衛の機龍警察シリーズなどはSF要素抜きでも楽しめる作品です。警察内部のドロドロとした抗争もあり、パワードスーツ型のロボットの登場もあり、警察小説ファンにもSF小説ファンにも楽しんでもらえる作品だと思います。
 
 

江藤宏樹(えとうひろき)
本を読むのが一番好きなことですが、ソロキャンプに行くのも、ひとりで釣りにいくのも、バイクでソロツーリングをするのも、けん玉をするのも好きなんです。これらの趣味を並べてみるとわかりやすいのですが、基本的にひとりで遊ぶのが好きみたいです。好きな本のジャンルは「変な本」です。
 

構成_丑番眞二

 

SHARE

一覧に戻る

STORE LIST

ストアリスト