【第50回】コンシェルジュ河出の世界文学よこんにちは『8つの完璧な殺人』ピーター・スワンソン/東京創元社
人間の暗い部分を見つめる 『8つの完璧な殺人』
「完璧な殺人」というテーマで、ある男がミステリー小説を8つ選ぶ。すると何年も経ってから、FBI捜査官が彼のもとを訪ねてくる。あの時彼が選んだ8つのミステリー小説。その内容に似た事件が実際に起こったと言うのだ……そんな、ミステリーファンなら心を惹かれずにはいられないストーリー。それが本書、「8つの完璧な殺人」だ。
しかも、著者はピーター・スワンソンだという。「そしてミランダを殺す」でその意外な展開が話題を呼び、以来「ケイトが恐れるすべて」「だからダスティンは死んだ」など、話題作を連発しているピーター・スワンソンだ。
しかし、初めにストーリーを聞いた時、思ったのは「どうもスワンソンらしくないな」ということだった。ミステリー小説に見立てた犯罪が現実に起こる、というと、ポール・アルテやアンソニー・ホロヴィッツあたりが本格ミステリーとして書きそうな気がする。だがふたを開けてみれば、本書はどこからどう見てもスワンソン印のミステリーだった。
前作「だからダスティンは死んだ」では、主人公であるヘンが、新しい隣人マシューは殺人犯ではないかという疑いを抱く。となると当然、読者が予想するのは、マシューが本当に殺人犯で、ヘンを追い詰めていく、といったストーリーだ。けれど読み進めていくとわかるのは、ヘンは決して無実の人ではなく、闇を抱えた人物だということだ。ふたりの関係がどのような展開を迎えるのかは、実際に読んでいただきたい。
本書「8つの完璧な殺人」も、「だからダスティンは死んだ」と同様、あらすじを聞いて想像するようにストーリーが展開していくことは、恐らくない。かわりに作者スワンソンは、恐らくスワンソン作品を追いかける読者が求めているものを、惜しげもなく与えてくれる。それはサスペンスであり、道を踏み外した者の目に映る光景であり、一見したところでは想像もできないような、人の心に潜む暗い部分である。この暗い部分を持つ人間たちを描くのが、この作家はとんでもなくうまいのだ。
これまでスワンソン作品を追いかけてきた人には安心してすすめられ、初めて読むという人にはこれをきっかけにしてスワンソン作品の持つ魅力にずぶずぶとはまってもらいたい、そんな一作である。