【第37回】コンシェルジュ河出の世界文学よこんにちは『ゼペット』レベッカ・ブラウン/ignition gallery
「愛する人がいない」寂しさ『ゼペット』
この本が届いた時、箱を開けてくれた人が、「かわいい本届いてますよ」と言った。なるほど、箱に入っていたこの本の表紙には、とてもかわいい男の子の人形が描かれている。タイトルが「ゼペット」なら、これはピノキオにちがいない。本当の男の子になりたいと願う木彫りの人形のあまりにも有名な物語を想起する人も多いのではないだろうか。
しかし本作はあくまで『ゼペット』であって、『ピノキオ』ではない。そして、見た目はとてもかわいい本だけれども、これはかわいい物語ではない。
これは、愛する人がいない寂しさを描いた物語だ。
「愛する人がいない」。それは愛する人がいる、あるいはいたが、諍いや死によって別れてしまい、今はそばにいない、という意味かもしれない。あるいは、誰かを愛したいが愛することのできる誰かがいない、という意味かもしれない。
本作でのゼペットは、一見後者である。ゼペットは自ら作った人形があまりにかわいいので「生きてほしい」と懇願する。しかし人形は生きたくなどない。だから本作での人形は人形のままで、決して生きた本物の男の子にはならない。
ゼペットは一見、誰かを愛したくてその誰かを見つけることのできなかった人に見えるかもしれない。しかし、それはちがう。ゼペットは愛することのできる誰かを見つけた。それが生きていない、生きることを選ばない、つまりはゼペットが思うとおりの形で愛されることを望まない、人形だっただけだ。ゼペットの愛する男の子は実在しないかもしれないが、男の子に対するゼペットの愛は、多少身勝手ではあっても、ほんものである。それゆえの「愛する人がいない」寂しさを、著者レベッカ・ブラウンは最後、優しくすくいあげてくれる。物語の寂しさ優しさに、カナイフユキ氏のイラストがそっと寄り添って、厳しく切ない愛の物語が一冊の美しい絵本になった。