【第1回】コンシェルジュの文房『文房四宝・筆』

皆様、今回ブログの掲載を始めることとなりました、文具コンシェルジュの佐久間です。
これから文具にまつわるお話をしながら、その魅力をお伝えしていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。

早速、今回のタイトル『文房四宝・筆』についてです。
文房(ぶんぼう)というのは、昔の中国の文人の書斎を意味する言葉で、文房で使う道具が文房具であり、中でも重要な4つの道具は文房四宝(ぶんぼうしほう)と呼ばれて古くから愛されてきました。
文房の4つの宝、その道具とは筆墨硯紙(ひつぼくけんし)を指します。1つ目の宝『筆』は、現代に置き換えるなら鉛筆やボールペンに該当するでしょうか。
もちろん昔ながらの筆を使う場合もあるでしょうし、その役目をキーボードに置き換えている方も少なくないでしょう。
代官山 蔦屋書店の店頭でも筆の役割を持つ道具をいくつか扱っていますが、ここではその中から代表的な3種類をご紹介していきます。

1つ目は万年筆です。

 
万年筆の魅力は何といっても文字に表情が生まれることではないでしょうか。万年筆を使うと、筆記角度や筆圧、筆記速度が筆跡に大きく影響してきます。ゆっくり書いたところや、筆圧がかかった部分はインクが濃く溜まった跡が残るのです。逆に力を抜いてさっとペン先が通った部分にはインクは軽くのるのみで明るく見えます。
一つの文字の中にインクの濃淡が見てとれるのは万年筆ならではの楽しみです。

また、万年筆の魅力として、筆圧を殆どかけずに書くことができるという点も外せないのではないでしょうか。万年筆のペン先が紙の表面に触れると、紙の繊維と繊維の間にインクが移ってゆきます。
これは液体が細い管状のものに入っていく毛細管現象というしくみを利用しているからです。
ペン先は紙の上に置くだけ。余計な力をかける必要はありません。力が抜けると疲れにくいのはもちろん、美しい文字が書けるようになると言う方も少なくありません。
そして次々と浮かんでくるアイデアや、溢れる感情も、手元の力加減に気を捕らわれる事無く書き留めることがきます。
万年筆を手に取ると、どんどん言葉が出てきていつもより少しおしゃべりになる、そういうところに面白さを感じずにはいられません。
 
万年筆は書く人の癖や感情を自然と汲み取って、その時のその人らしい言葉と文字を残す道具と言えます。そうやって万年筆を長く使い続けるとペン先は書き手に合わせて経年変化をします。
これが万年筆の3つ目の魅力です。
ペン先は持ち主の書き方に合わせて、微かに形を変え紙にフィットし、しなりやすくなっていきます。そうやって持ち主にとって書きやすい道具へと変わってゆくのです。
万年筆が好きな方は、この変化をペン先が育つとか、懐くと表現することがありますが、まさにその通りで、長い時間を共にした万年筆は持ち主にとって唯一無二の存在になるのです。

2つ目はボールペンです。
皆様も毎日のように使っていらっしゃるのではないでしょうか。
ボールペンは私達人類にとっては万年筆よりも後に登場した比較的新しい道具なのですが今や必需品ですね。万年筆と比較すると筆跡は単調になってしまいますが、ボールペンの場合はお手入れの必要も無く(万年筆の場合は日ごろのお手入れが欠かせません)、持ち主の書き癖がつくような道具では無いので誰でも使うことができます。
いつでも誰でも使える身近な筆記具なのです。
 

書き癖がつかず誰でも使えるという事は、ボールペンはどれも同じという事でしょうか。
実はボールペンの書き心地は個体差こそありませんが、替え芯の種類や、ボディの重さや太さのバランスによって大きく異なります。
心地よい芯とボディバランスを求めて、たくさんのボールペンを渡り歩いた方も少なく無いはず。
これぞ、というバランスのものに巡り合うとそれでなくては文字を書きたく無い、というほどに手放せない存在になると思います。

またビジネスシーンでも登場する機会の多いボールペンですが、持つ人を演出するという役目も担っています。例えば、シャープでスマートな印象を持たれたい、真面目な印象を持たれたい、もっと個性的に見せたい、等、お仕事やシーンに合わせて装いたい人物像がある時、スーツやネクタイを選ぶようにボールペンを選べば効果的に小道具としての役割を果たしてくれることでしょう。
時には自分の気持ちも、それぞれのボールペンが持っている雰囲気に影響される事もあるかと思います。気合を入れたいとき、気分を盛り上げたいとき、落ち着きたいとき、そんな時はぜひ気分に合ったボールペンを手に取ってみてください。いつも近くにある、いつもの道具だからこそ、ボールペンは、その日をより良い一日へ変化させてくれる存在となります。

3つ目は硝子ペンです。
硝子ペンは日本発祥の筆記具です。その名のとおり硝子でできている筆記具です。ペン先は複数の溝があり、ここをインクに浸して字を書きます。

 
軸にインクを溜めることができないので、使う場合はボトルインクを用意して、時々ペン先にインクをつけながら書くことになります。便利さとは対極にある使用方法ですが、なんと優雅なことでしょうか。
広げた紙のそばにインク瓶を置いて、つけては書いて、つけては書いて。硝子ペンを使うとき、効率や利便性といったことを忘れて心穏やかに書くことに集中できる時が流れます。サリサリと、硝子が紙に擦れる透明感のある音も魅力的です。
そんな硝子ペンの大きな楽しみの1つが、1本で複数の色のインクを使用できるというところです。万年筆やボールペンだと軸内にインクが入ってしまっているため、途中で色を替えるというのは少し難しいのですが、その点、硝子ペンは硝子のペン先の表面にインクがのっているだけなので、さっと水洗いすれば他の色のインクをつけて使うことができます。いろいろな色を使い分けることができるので、言葉に合わせて色を選び文章を彩ったり、文字にカラーのイラストを添えることができます。
今、世の中で販売されている硝子ペンの多くは、ペン先だけでなく軸の部分も硝子でできています。この硝子の軸も多くの人を魅了するポイントです。職人の手仕事で生まれた硝子特有の優美な曲線や、透明感のある色は、眺めているだけでも惚れ惚れしてしまいます。
知れば知るほど、ぜひ手元に置いておきたい、そう思えてくる筆記具です。

今回は万年筆、ボールペン、硝子ペンの3種類の道具について、その魅力を紹介させていただきました。
それぞれの良さがあって興味深いですね。
 
魅力的な『筆』の共通点というのは、書くという作業を楽しみに変えてくれるところではないでしょうか。昔に比べると書く機会が減ってきたと言われている現在ですが、それでも書くという行為は私達の日常の中に根付いています。
この何気ない手の動きを楽しみに変えてくれるすてきな『筆』について、少しでも皆様に伝えることができたなら幸いです。
 

文具コンシェルジュ
佐久間 和子

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