【第43回】間室道子の本棚 『人生がときめく片づけの魔法 改定版』 近藤麻理恵/河出書房新社

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『人生がときめく片づけの魔法 改定版』
近藤麻理恵/河出書房新社
 
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書評ではなく番組評になるかもしれないけど、「1冊の本が人生を変える」という瞬間を目の当たりできるってテレビならではで、すごいと思ったので紹介したい。本は近藤麻理恵さんの『人生がときめく片づけの魔法』、番組はNHKスペシャル『密着ドキュメント 片づけ~人生をやりなおす人々』。近藤さんから教えを受けた「こんまり流片づけコンサルタント」が、床に置かれ放題の衣類、物が阻んで奥まで行けない部屋、雪崩を起こした書類、子供が外で遊ぶ時のおもちゃのすぐ脇に布団、という家々に出向く半年間のドキュメントだ。

私はいわゆる「汚部屋」を見るたび、「よっぽどずぼらか、よっぽど忙しくて整理や掃除のヒマがないんだろうな」と思っていた。つまり、「時間と本人のやる気さえあれば、片づけはできる」と考えていたのだ。それは大間違いだった。

番組に登場した一人は、はにかむ笑みがやさしそうな32歳の専業主婦で、近藤さんの本に出て来る片づけ順「衣類→本→書類→小物→思い出の品」の衣類の時点で早くも手が止まった。中学高校時代に着ていた服が捨てられないのだ。このあとコンサルタントと実家に行くが、彼女は10年以上も前のバイト時代の給料明細を処分できない。

実は彼女には引きこもりで、中学、高校は不登校だった。アルバイトもしたがどれも続かず、職場を転々とした。服も給料明細もつらい時代の記憶だ。でもこれらを捨てることは、あの頃をなしにすることになる。あんなにがんばっていた自分を捨てていいのか、と依頼者は泣きながら話した。コンサルタントは「モノがなくなっても大丈夫な自分って、どういう自分なんだろうね」と静かに声をかけた。

もう一人は夫と娘がいる陽気な49歳の女性。この人は障碍者のグループホームを経営しており、副業でアロマの仕事をしていて、さらに友人のライブにメイク係とコーラスでの参加を買って出る。掃除や整理がおざなりになるのも無理はない。コンサルタントは家にいる時間を増やすようアドバイスするが、彼女は「本当は家にいたいのに、外へ出てしまう」と奇妙なことを言い出した。

依頼主には壮絶な過去があり、お父さんが暴力的な人だった。ふつうの人には安心の象徴である我が家が、安全な場所ではなかったのである。自分で築いた今の家庭はそうじゃないとわかっていても、彼女は家にいることができない。涙を流す依頼主に、コンサルタントは玄関の掃除を勧めた。

靴をすべて出して底を拭き、三和土を雑巾掛けし、ドライフラワーとか色紙とか写真とかが飾られて(積み上げられて?!)いた棚には、光を放つオブジェと生花が飾られた。とてもすっきりして、家は怯えて出ていくところではなく帰ってきた彼女を気持ちよく迎えてくれる場所、その第一歩になったな、と見ていてわかった。

『人生がときめく片づけの魔法』のキラーワードは、「片づけは片をつけること」「ものを捨てられないタイプは2つ。<過去に対する執着>と<未来に対する不安>」「大事なのは捨てるモノ以上に残すモノ。そしてどう捨てるか、どう残すか」。

番組の最後で、私はほんとうに「これは魔法だ!」と思った。それぐらい、劇的なラストだった。

今日も世界のどこかで、1冊の実用書が、絵本が、写真集が、小説が、誰かの人生に影響を与えている。本って素晴らしい、と改めて思った。そして、すごいぞNHK!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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