【第253回】間室道子の本棚 『ジャンル特化型 ホラーの扉 八つの恐怖の物語』闇・編著 澤村伊智 芦花公園 平山夢明 雨穴 五味弘文 瀬名秀明 田中俊行 梨/河出書房新社
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『ジャンル特化型 ホラーの扉 八つの恐怖の物語』
闇・編著 澤村伊智 芦花公園 平山夢明 雨穴 五味弘文 瀬名秀明 田中俊行 梨/河出書房新社
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まず感心したのは、「はじめに」という頓花聖太郎さんの文章だ。この人はホラー好きが高じ、株式会社を立ち上げた。それが「闇」。業務はお化け屋敷やイベントの企画、映画、ゲームの宣伝など、怪奇や恐怖の魅力を伝えるさまざまである。
なんとなく怪談の導入っぽい。これで「ある日、彼のもとに顔色の悪い男がたずねてきて」などとなったら一作できあがりそうだが、ホラーはいまや一大産業。一方でその特殊性も、広告や映像の世界に身を置く人は感じているだろう。専門会社の出現はありがたいことであり、じっさい商売になっているのである。設立は2015年だそうだから、「闇」は不況やコロナ禍を生き延びたのだ。
で、プロデュース、宣伝といったエンタメ業界どまんなかに身を置くうち、頓花さんには課題も見えてきた。それはホラーが「強い関心をもたれながらも、体験してもらえないケースが多すぎる」ということ。さきほど一大産業と書いたが、”こっち側に来てくれない人”がまだものすごくいる。
このまま彼のエッセイを引用し続けると丸うつしになってしまうので、私の考えで例をかみくだくと、たとえば町でステキなフランス料理店を見かける。フレンチ、いつでも人気で話題だし、入ってみたい。でも「かたつむりがでてくるかも」で尻込みする。そのうちまた良さげなところがある。「でもかたつむりが」。さらに一軒。「だってかたつむり」。
「エスカルゴがダメだと思うなら注文しなければいいだけ!それ以外のおいしいフレンチ、いくらでもあるよ!」と株式会社闇の代表はさけびたいのである!
閑話休題、さすがプロ。頓花さんは、ホラーはなぜ吸引力があるのになかなか”足を踏み入れる”までいってもらえないのかを分析。それを書籍でクリアしようという企画が本書である。
この本は「恐怖の対象は何?」を切り口とし、5W1Hでジャンル分け。「誰が=Who」「何が=What」「なぜ=Why」などでくくり、人気作家から気鋭まで、八人の作家に書き下しを頼んだのである。すごーい。大豪華。
「私はこの傾向だ」をもとにそこだけ読んでもいいが、ぜんぶにトライすると気づきや新境地の開拓があると思う。私は”自分がなにに戦慄するのか”に発見があった。
人智を超えた恐怖の発動や大残酷より、”作中の誰かがへんなところで笑う”。私はそれが怖い。おすすめは澤村伊智さんの「みてるよ」と芦花公園さんの「終わった町」。
なんとなく怪談の導入っぽい。これで「ある日、彼のもとに顔色の悪い男がたずねてきて」などとなったら一作できあがりそうだが、ホラーはいまや一大産業。一方でその特殊性も、広告や映像の世界に身を置く人は感じているだろう。専門会社の出現はありがたいことであり、じっさい商売になっているのである。設立は2015年だそうだから、「闇」は不況やコロナ禍を生き延びたのだ。
で、プロデュース、宣伝といったエンタメ業界どまんなかに身を置くうち、頓花さんには課題も見えてきた。それはホラーが「強い関心をもたれながらも、体験してもらえないケースが多すぎる」ということ。さきほど一大産業と書いたが、”こっち側に来てくれない人”がまだものすごくいる。
このまま彼のエッセイを引用し続けると丸うつしになってしまうので、私の考えで例をかみくだくと、たとえば町でステキなフランス料理店を見かける。フレンチ、いつでも人気で話題だし、入ってみたい。でも「かたつむりがでてくるかも」で尻込みする。そのうちまた良さげなところがある。「でもかたつむりが」。さらに一軒。「だってかたつむり」。
「エスカルゴがダメだと思うなら注文しなければいいだけ!それ以外のおいしいフレンチ、いくらでもあるよ!」と株式会社闇の代表はさけびたいのである!
閑話休題、さすがプロ。頓花さんは、ホラーはなぜ吸引力があるのになかなか”足を踏み入れる”までいってもらえないのかを分析。それを書籍でクリアしようという企画が本書である。
この本は「恐怖の対象は何?」を切り口とし、5W1Hでジャンル分け。「誰が=Who」「何が=What」「なぜ=Why」などでくくり、人気作家から気鋭まで、八人の作家に書き下しを頼んだのである。すごーい。大豪華。
「私はこの傾向だ」をもとにそこだけ読んでもいいが、ぜんぶにトライすると気づきや新境地の開拓があると思う。私は”自分がなにに戦慄するのか”に発見があった。
人智を超えた恐怖の発動や大残酷より、”作中の誰かがへんなところで笑う”。私はそれが怖い。おすすめは澤村伊智さんの「みてるよ」と芦花公園さんの「終わった町」。
代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。