【第252回】間室道子の本棚『偽者 フェイクアカウント』 ローレン・オイラー/早川書房 『となりのブラックガール』 ザキヤ・ダリラ・ハリス/早川書房
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『偽者 フェイクアカウント』
ローレン・オイラー/早川書房
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『となりのブラックガール』
ザキヤ・ダリラ・ハリス/早川書房
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今年22年の2月に本だけど、なんかへんなもの読んじゃったなあ、と気になっていたのが『偽者 フェイクアカウント』。メディアがおすすめしたい感動作とかインフルエンサーが超面白かったと言ってる一冊とかは情報を待っていた人の元に届く。でも「へんなもの」は、ひっかかった一人が声をあげないと埋もれちゃう。
『偽者~』の女性主人公にはそろそろ別れたいなと思っている彼氏がいて、ある夜彼が寝ている隙にスマホを覗き見た。するととんでもないものが。うわあ、ナニコレ。もう無理無理無理無理無理。別れは当然。ふんぎりがついた。だがあることが起き、彼女は「自身の意志で彼とおさらば」ができなくなる。
SNSにドはまりする人々の実態を活写する意欲作で、特にネットに溢れる偽者たちは、嬉々として別人になりたいのか、それとも今の自分から逃れたいのかという方向性が興味深かった。いろんな顔を持つことが安定や解放にならず、主人公がどんどん我を忘れていくさまがいたましい。ラストは賛否両論あるかも。
そして今回あわせて紹介するのが『となりのブラックガール』。
主人公のネラは若い黒人女性で、NYの有名出版社の編集アシスタントをして二年。熱意はあるのに自分以外白人というオフィスの中で、やりたいことが実現に結びつかない。そんな中、ある日二人目の「若くて」「黒人で」「女性の」「アシスタント」が採用される。名前はヘイゼル。
で、「二人が手を組み、シリアスに、時にコミカルに、わからずやの上司たちや会社と戦う」というストーリーを私は想像した。しかし、お話はものすごい方向にぶっ飛ぶのである!
この白人だらけの老舗出版社には1980年代に伝説の黒人女性編集者がいた。彼女は親友の黒人女性が書いた作品を手掛け、無名だった二人がタッグを組んだ本はベストセラーランキングをかけあがり、彼女たちは時代の寵児になる。そしてさあ、これからだという時、この編集者が・・・。ブラックガールに、なにが?
一方ネラはヘイゼルのスイスイぶりに呆然とする。自分の前に二年間「壁」としてあり続けた白人女性の上司や会社のトップである白人男性を、やすやすと乗り越えていくのだ。媚びへつらいではなく、この新人は堂々としており、優秀で行動力に溢れている。でも「スイスイ」「やすやす」すぎないか?こちらのブラックガールにも、なにが?
アメリカの今がリアルに描かれている作品で、私がうなったのは逆からのもの言い。ネラは会社にとってすごく大事な白人男性作家の書いた新作原稿について、あることを指摘した。すると「え、ぼくを人種差別的だって言いたいの?!」となってしまうのである。
ここで私は自分を恥じた。白人男性作家のうすっぺらさは私にもあった。だってさっきの読む前の予想――「黒人女性二人が手を組み、シリアスに、時にコミカルに、わからずやの上司たちや会社と戦う話」ってなによ。「メジャーの中のマイノリティ」という時、私はなぜこんな、戯画モドキのステレオタイプしか考えないのか。著者のザキヤ・ダリラ・ハリスさんは「なめとんのか」といいたいであろう。
で、本書は「え、そういう話?!」という仰天の展開になっていくのだが、読み終わって、一冊目の『偽者 フェイクアカウント』とこの『となりのブラックガール』、訳者が同じだということに気づいた。岩瀬徳子さん。
ひりつくアメリカの最先端を描いた作品を同じ人が訳してたって、ワクワクする。新しい書き手たちとともに、岩瀬さんの今後にも注目だ。
『偽者~』の女性主人公にはそろそろ別れたいなと思っている彼氏がいて、ある夜彼が寝ている隙にスマホを覗き見た。するととんでもないものが。うわあ、ナニコレ。もう無理無理無理無理無理。別れは当然。ふんぎりがついた。だがあることが起き、彼女は「自身の意志で彼とおさらば」ができなくなる。
SNSにドはまりする人々の実態を活写する意欲作で、特にネットに溢れる偽者たちは、嬉々として別人になりたいのか、それとも今の自分から逃れたいのかという方向性が興味深かった。いろんな顔を持つことが安定や解放にならず、主人公がどんどん我を忘れていくさまがいたましい。ラストは賛否両論あるかも。
そして今回あわせて紹介するのが『となりのブラックガール』。
主人公のネラは若い黒人女性で、NYの有名出版社の編集アシスタントをして二年。熱意はあるのに自分以外白人というオフィスの中で、やりたいことが実現に結びつかない。そんな中、ある日二人目の「若くて」「黒人で」「女性の」「アシスタント」が採用される。名前はヘイゼル。
で、「二人が手を組み、シリアスに、時にコミカルに、わからずやの上司たちや会社と戦う」というストーリーを私は想像した。しかし、お話はものすごい方向にぶっ飛ぶのである!
この白人だらけの老舗出版社には1980年代に伝説の黒人女性編集者がいた。彼女は親友の黒人女性が書いた作品を手掛け、無名だった二人がタッグを組んだ本はベストセラーランキングをかけあがり、彼女たちは時代の寵児になる。そしてさあ、これからだという時、この編集者が・・・。ブラックガールに、なにが?
一方ネラはヘイゼルのスイスイぶりに呆然とする。自分の前に二年間「壁」としてあり続けた白人女性の上司や会社のトップである白人男性を、やすやすと乗り越えていくのだ。媚びへつらいではなく、この新人は堂々としており、優秀で行動力に溢れている。でも「スイスイ」「やすやす」すぎないか?こちらのブラックガールにも、なにが?
アメリカの今がリアルに描かれている作品で、私がうなったのは逆からのもの言い。ネラは会社にとってすごく大事な白人男性作家の書いた新作原稿について、あることを指摘した。すると「え、ぼくを人種差別的だって言いたいの?!」となってしまうのである。
ここで私は自分を恥じた。白人男性作家のうすっぺらさは私にもあった。だってさっきの読む前の予想――「黒人女性二人が手を組み、シリアスに、時にコミカルに、わからずやの上司たちや会社と戦う話」ってなによ。「メジャーの中のマイノリティ」という時、私はなぜこんな、戯画モドキのステレオタイプしか考えないのか。著者のザキヤ・ダリラ・ハリスさんは「なめとんのか」といいたいであろう。
で、本書は「え、そういう話?!」という仰天の展開になっていくのだが、読み終わって、一冊目の『偽者 フェイクアカウント』とこの『となりのブラックガール』、訳者が同じだということに気づいた。岩瀬徳子さん。
ひりつくアメリカの最先端を描いた作品を同じ人が訳してたって、ワクワクする。新しい書き手たちとともに、岩瀬さんの今後にも注目だ。
代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。