【イベントレポート】『冒険の書 AI時代のアンラーニング』刊行記念 孫泰蔵トークイベント
「AIが劇的に進化していく時代、人間はどう生きるか?」 2023年4月17日(月)開催
-最先端AIのスタートアップに携わってきた連続起業家、孫泰蔵の著書『冒険の書 AI時代のアンラーニング』刊行記念イベントが、代官山 蔦屋書店の会場とオンライン配信で開催されました。会場チケットは即完売、当日はオンライン視聴者を含めて200名を超える参加者が集まり、熱気に満ちたトークイベントとなりました。
■100年に一度、風景がガラリと変わるようなことが起こる
私は大学時代に起業しましたが、私ほど失敗した人は同世代にはいないんじゃないかというくらい失敗しています。そんな私がなぜ『冒険の書』を書いたのか、という背景をお話ししたいと思います。
1900年のニューヨーク五番街には、馬車がたくさん往来していましたが、そこに初めて自動車が走ったんです。それから13年後、どうなったと思いますか? 五番街には馬車は一台、ほかは自動車になってしまったという写真が残っています。このようにたった10年ちょっとで、風景が変わる。そういうことが100年に1回くらいは起こり得るんです。
まさに今、110年ぶりくらいに、また大きく社会の構造や風景が変わろうとしています。それが自動運転車の登場です。私たちが初期から伴走していたスタートアップのzooxがいよいよベールを脱ぎました。CGじゃないですよ。まさに先月、カリフォルニア州の公道でドライバーがいないロボタクシー専用車両を使い、乗客を乗せて走行させることに成功したと発表しました。このロボタクシーが普及すると、タクシー業界だけではなく、マイカーの保有率や都市における駐車場問題など周辺環境までも大きく変わります。なので、今年が自動運転の普及の元年です。
■もし明日死ぬとして、一言だけ自分の子に遺言を残すとしたら
そのような時代の変遷の中で、市民として求められる能力は、「19世紀は読み書き算盤」「20世紀は知識の正確な習得」だとすると、21世紀はなんだろう。そこで私はこういう問いを立ててみました。「もし明日死ぬとして、一言だけ自分の子に遺言を残すとしたら、どんな言葉を遺す?」と。色々考えたけど、やっぱりこれだと思ったんです。「世界は自ら変えられる」。
自分の子どもが未来に希望をもって、自分で自分の道を切り拓いていけるような子になってくれたら、それは幸せだろうと思いますよね。でもそのためには、「世界は自ら変えられる」と思わなければ、自分で道を切り拓いていこうなんて思わないわけじゃないですか。こんなの当たり前ですよね。でもここで聞いておられる皆さんに本気で考えていただきたいんです。心の底から、自分が何かやったからって世界を変えられると思いますか。そう思えない私たちが子どもたちに対して、こんなことを言えますか。
■孫家の教え「他人に習うな」の極意とは
「孫家の教え」に、「他人に習うな」という言葉があります。新しいことをやらなきゃいけないとなった時に、まず先行事例や類似のケースはないかと情報を集めようとしますよね。そうすると父からものすごく怒られたんです。
全員が右の道を進んでいるのに自分だけ左の道を進むのって怖いじゃないですか。でも、私は左の道に行った経験は何度もあって、失敗もしているんですが、実は怖くないんです。むしろ、行きますっていうと、かなりの確率で皆応援してくれます。このままでいいのかなという気持ちが皆あるので、「本当にそっちに行くの?でも行くなら応援するよ」と言ってくれるんです。で、実際に行ってみると孤独でもないし棘の道でもなくて、楽しいばっかりなんです。ハラハラドキドキして不安にもなりますが、それも含めて楽しみじゃないですか。冒険や旅ってそれが醍醐味ですよね。
だから、21世紀に必要な力の話に戻ると、「未来を自ら切り拓く力」じゃないかと思うんです。私がスタートアップや起業家を応援するときは、ずっとこの考え方を持ってきました。さらに下の年齢の人たちにも同じ考えで応援しようという発想で作ったのが「VIVITA」です。
VIVITAは、6、7年くらい前から活動しているんですが、世界7か国、1万人以上の子どもたちと一緒にやっています。映像を見ると工作教室のように見えるかもしれませんが、これは大人が教えているのではなく、子どもたちが自分の作りたいものをひたすら作っているだけなんですね。
■社会のデザインプロセスに子どもたちを巻き込もう
最近、VIVITAを「社会のデザインプロセスに子どもたちを巻き込むムーブメント」と再定義しようじゃないかと話しています。地方創生とか街づくりって、10年20年先を見据えた長期的なプロジェクトですよね。なのにどうしておじさんおばさんばかりで話し合っているんですかと。なんで子どもたちの意見がそこに組み込まれないのか。
世界中を見ても、子どもが役員会や協議会などの意思決定の場に入っているような場はひとつもない。これを私は人類最後の差別だと思っているんです。というわけで、VIVITAはこの差別を変えていくムーブメントだと再定義しようと思っています。
先ほど紹介したzooxのような社会をガラッと変えていくスタートアップと子どもたちを、本気で混ぜていこうと思っています。たとえば子どもたちが、スタートアップの研究開発部門に入って、一緒に研究開発をやるとか。これによって、お互いが学べると思ってるんですよね。
■君が気づけば、世界は変わる。
一度気づいたらもう気づく前には戻らない。そこから違う自分になる、それが少しずつ周りにも増えてきて、「これ本当に必要?」「いらないね」「じゃあやめますか」といってやめる、そういう風にして世の中は変わっていく。逆にそういうことでないと世の中は変わらないと思うんです。
世界を変えられるという言葉だけ聞いてもわからないけど、私が自分なりに実践してみた、その思考の動き、変遷みたいなものを書いて、皆さんが読むことで、自分の認識が変わっていくということを追体験できるような本を書こうと思って、『冒険の書』という本にしました。
気づいた人が少しずつ力を合わせて、何か興味があることで関わりたいことがあれば一緒にやっていきましょうということで、祈るような気持ちでこの本を書きました。本日はありがとうございました!
◆イベントに参加して
最先端スタートアップの近未来映像から始まったトークイベント。「心の底から、自分が何かやったからって世界を変えられると思いますか」という問いかけに、ハッとした方も多いのではないでしょうか。でも気づいたのだから大丈夫、誰も行ったことのない方の道を選ぼう、冒険は楽しいことばかりだし、実はまわりも応援してくれるよ。そんなメッセージから暖かい気持ちがさざ波のように会場にも広がって、こんな風に世界は変わっていくのだと感じられる瞬間がありました。ご参加された皆さま、ありがとうございました。(レポート:尾花 佳代)
【プロフィール】
孫 泰蔵 (そん・たいぞう)
連続起業家。1996年、大学在学中に起業して以来、一貫してインターネット関連のテック・スタートアップの立ち上げに従事。2009年に「アジアにシリコンバレーのようなスタートアップのエコシステムをつくる」というビジョンを掲げ、スタートアップ・アクセラレーターであるMOVIDA JAPANを創業。2014年にはソーシャル・インパクトの創出を使命とするMistletoeをスタートさせ、世界の社会課題を解決しうるスタートアップの支援を通じて後進起業家の育成とエコシステムの発展に尽力。そして2016年、子どもに創造的な学びの環境を提供するグローバル・コミュニティであるVIVITAを創業し、良い未来をつくり出すための社会的なミッションを持つ事業を手がけるなど、その活動は多岐にわたり広がりを見せている。