【第109回】間室道子の本棚 『わざと忌み家を建てて棲む』 三津田信三/中公文庫
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
* * * * * * * *
『わざと忌み家を建てて棲む』
三津田信三/中公文庫
※画像をクリックすると購入ページへ遷移します。
※画像をクリックすると購入ページへ遷移します。
* * * * * * * *
前回の三津田信三先生の「幽霊屋敷シリーズ」三作目、『そこに無い家に呼ばれる』の紹介文で、前作に、病死や事故死、殺人のあった家の部位を継ぎはぎした建物のお話=『わざと忌み家を建てて棲む』がある、と書いた。あの時点では未読だったのだけど、このシリーズ二作目は私の予想のはるか上を行くものだった。
有名なので皆さんご存知かもしれないが、京都には「血天井」を持つ寺院がある。落城した武将たちの自刃の場の床板をはがし、お寺の天井にして供養。見上げると血の足跡や、何度拭いても落ちないしみがある、というものだ。寺の観光客係の方(ボランティアのおばちゃんが多い)が、こことこことここ、とバチ当たりなことに長い棒でつついて教えてくれ、中には「ほら、そこに苦しむお侍の横顔が」と激しく天井の木目をつつくおばちゃんもいるんだけど、血の跡は「そうなのか・・・」という程度で、横顔にいたっては「そうなのか??」が多い。
閑話休題、そういうわけで私は「事件のあった家の部位を継ぎはぎした建物」とは、これは自殺があった家の柱、こっちは連続殺人者の部屋の壁、そっちは一家心中のマンションのドアといった具合の一軒屋と思っていた。
そんなものではない!本書に登場するのは、「家にある部位を寄せ集めた建物」ではなく、「家そのものを部位にした巨大建築」だったのである!!
資産家の八真嶺(やまみね・仮名)という男が人死にのあった団地の一室まるごと、旧家一式、歯科医院全体などを買い取り、無理矢理つなげて一つの建物にした。その名も「烏合邸」。しかも自分が住みたかったのではない。彼の目的は・・・。
三津田先生と編集者が、烏合邸および「八真嶺の遠縁だという女性・川谷妻華(かわたに・つまはな 仮名)がこの建物について、なんでもいいから情報を欲している」と知ったこと、そして編集者が見つけた「黒い部屋 ある母と子の日記」「白い部屋 作家志望者の手記」を川谷妻華に渡す前に三津田先生が読んだことから、恐怖の本番が始まる。
読んでいてしばらく不思議だったのは、黒い部屋の母子、白い部屋の青年、謎の女・川谷妻華らについては、三津田先生も編集者も調べたり考えたりするけど、烏合邸という悪夢を金にあかせて実現した八真嶺については意外なくらいスルーなこと。
まあこの男については、工事の難航を訴える大工さんからの手紙二通(実物を先生も編集者も見たことがなく、しかも封筒なしで便箋のみらしい)ぐらいで調べようがない。そして八真嶺について考えるヒマなく、「その後出て来るカセットテープ 赤い医院」とか、ある夜の常軌を逸した体験とか、三津田先生と読み手は次々怪奇に直面する!
でも―考えるヒマなく、と書いたが、実は登場人物たちや三津田作品の愛読者は、「考えるまでもなく」受け入れてるのではないか。どうしてこんな人物になったんでしょう、という八真嶺個人のルーツなんて知るまでもなく、この世には「曰くつきの家を合体させたら何が起きるのか」と発想しちゃう狂気があって、それに自分は途方もなく惹かれてしまうんだって、三津田先生も、編集者も、私もわかってるのだ。ひいいいいいいいいいいいいいいいい。
有名なので皆さんご存知かもしれないが、京都には「血天井」を持つ寺院がある。落城した武将たちの自刃の場の床板をはがし、お寺の天井にして供養。見上げると血の足跡や、何度拭いても落ちないしみがある、というものだ。寺の観光客係の方(ボランティアのおばちゃんが多い)が、こことこことここ、とバチ当たりなことに長い棒でつついて教えてくれ、中には「ほら、そこに苦しむお侍の横顔が」と激しく天井の木目をつつくおばちゃんもいるんだけど、血の跡は「そうなのか・・・」という程度で、横顔にいたっては「そうなのか??」が多い。
閑話休題、そういうわけで私は「事件のあった家の部位を継ぎはぎした建物」とは、これは自殺があった家の柱、こっちは連続殺人者の部屋の壁、そっちは一家心中のマンションのドアといった具合の一軒屋と思っていた。
そんなものではない!本書に登場するのは、「家にある部位を寄せ集めた建物」ではなく、「家そのものを部位にした巨大建築」だったのである!!
資産家の八真嶺(やまみね・仮名)という男が人死にのあった団地の一室まるごと、旧家一式、歯科医院全体などを買い取り、無理矢理つなげて一つの建物にした。その名も「烏合邸」。しかも自分が住みたかったのではない。彼の目的は・・・。
三津田先生と編集者が、烏合邸および「八真嶺の遠縁だという女性・川谷妻華(かわたに・つまはな 仮名)がこの建物について、なんでもいいから情報を欲している」と知ったこと、そして編集者が見つけた「黒い部屋 ある母と子の日記」「白い部屋 作家志望者の手記」を川谷妻華に渡す前に三津田先生が読んだことから、恐怖の本番が始まる。
読んでいてしばらく不思議だったのは、黒い部屋の母子、白い部屋の青年、謎の女・川谷妻華らについては、三津田先生も編集者も調べたり考えたりするけど、烏合邸という悪夢を金にあかせて実現した八真嶺については意外なくらいスルーなこと。
まあこの男については、工事の難航を訴える大工さんからの手紙二通(実物を先生も編集者も見たことがなく、しかも封筒なしで便箋のみらしい)ぐらいで調べようがない。そして八真嶺について考えるヒマなく、「その後出て来るカセットテープ 赤い医院」とか、ある夜の常軌を逸した体験とか、三津田先生と読み手は次々怪奇に直面する!
でも―考えるヒマなく、と書いたが、実は登場人物たちや三津田作品の愛読者は、「考えるまでもなく」受け入れてるのではないか。どうしてこんな人物になったんでしょう、という八真嶺個人のルーツなんて知るまでもなく、この世には「曰くつきの家を合体させたら何が起きるのか」と発想しちゃう狂気があって、それに自分は途方もなく惹かれてしまうんだって、三津田先生も、編集者も、私もわかってるのだ。ひいいいいいいいいいいいいいいいい。